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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2025年04月21日

近江谷 克裕
第 134 回 Elucをめぐる旅の物語-タイ王国・ラヨーンにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
3か月前とは景色が変わってしまうのが、この国らしい。12月にはなかったセブン・イレブンが、この村にもできた。これまでは30分ほどドライブして市場のある町に行かなければ、セブン・イレブンはなかったが、3月にはできていた。なんと、その周りには屋台が何台も立ち並び、村の人々の憩いの場になっていた(写真1)。タイ人らしさか、目新しさものに対して受け入れる国民性を垣間見る出来事であった。VISTEC(大学院大学)もまた、開学から10年、私が通い始めてから8年たったが、その変化には目覚ましいものがある(写真2)。

VISTECに滞在中、夕食は仲の良いメンバーと外食することなる(写真3,4)。今回の夕食時の話題の一つは研究室内の世代間の変化についてであった。8年もいると、初期メンバーが第一世代となるが、彼らのほとんどが学位を取得し、ポスドクやスタッフとして今は数名しか残っていない。よって、私の食事相手の多くはこの世代となるが、そのうちの1人はこの夏にはドイツで新しいポスドク生活を始めるらしいし、もう一人は、秋には結婚して、相手の住む中国に移動するらしい。初期メンバーが少なくなるのは、かなりさびしい気がするが、彼らの旅立ちも、またいいものだ。

さて、今は第何世代だろうかということが話題になった。私の感覚では、ラボ立ち上げから3、4年ごとくらいに世代が変わっているような気がしている。よって、今は第三世代くらいではないだろうかと思っている。そして、私の話し相手が初期メンバーが中心となるためか、この第三世代との交流は限られたものになっているような気がしている。また、第一世代もまた、第三世代との交流が、前ほど蜜ではないようにも見える。これには、種々の理由があると思っている。単に年齢の違いもあるが、一つは大学院生の気質の変化である。第一世代は、開学したばかりで、ラボの知名度を上げたいという意識が強く、研究に対しても貪欲であったが、その点、世代が新しくなるとともに、その熱意が薄れつつあるような気がするのである。

一方、VISTECは新規の大学院大学として、無償の奨学金制度や独自の留学制度を設けたことが、既存の大学との大きな違いであった。しかし、このやり方にバンコック市内の有名大学にも危機感が生まれ、類似の大学院生への支援プログラムや在学中の留学制度もできたらしい。よって、わざわざバンコック市内から遠いVISTECに来る学生の質の低下があると初期メンバーは思っているし、私もそう思っている。とはいえ、かわいい後輩たちの面倒を見るのも第一世代のメンバーである。彼らがラボからいなくなりつつある今、ラボいやVISTECは大きな岐路を迎えているのかもしれない。

しかし、いずこの組織でも似たような気がする。私が所属していた研究機関は独立行政法人化第一号であったが、初期の頃は、挑戦的な試みがなされていたが、10年を過ぎるころには、組織を維持することが優先され、社会をリードしようとする気概が失われつつあったような気がする。常に時代の変化に対して、変わらなければならないはずが、どこかで維持モードが入ってしまったのかもしれない。私は変わる勇気が伝統を創ると思うが、変化を理解し対応することは難しいのかもしれない。タイや日本で感じる変化をみるにつけ、伝統を創る難しさを感じるが、何もできていない自分に叱咤する日々である。
  • 写真1 村にできたセブン・イレブンの周りには屋台ができた。
    写真1 村にできたセブン・イレブンの周りには屋台ができた。
  • 写真2 VISTECもまた8年たち、建物群が充実した。
    写真2 VISTECもまた8年たち、建物群が充実した。
  • 写真3 VISTECでの夕食の一コマ。仲間たちとの食事が一番の楽しみ。
    写真3 VISTECでの夕食の一コマ。仲間たちとの食事が一番の楽しみ。
  • 写真4 VISTECでの夕食の一コマ。仲間たちとの食事が一番の楽しみ。
    写真4 VISTECでの夕食の一コマ。仲間たちとの食事が一番の楽しみ。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。
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