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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2025年06月23日

近江谷 克裕
136 136 回 Elucをめぐる旅の物語-日本・大阪、北海道にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
少しプライベートな話になるが、4月に亡き母の納骨を行った。私の故郷は北海道函館だが、亡き父は仕事の関係で、たびたび訪問した札幌市郊外の石狩湾を望む場所にお墓を建てた。昨年、母が亡くなり、雪解けも進み、納骨に踏み切った。4月下旬の石狩市の墓苑の桜は固いつぼみのまま、北国の春はマダマダだが、午前中の雨も止み、父の好きだった日本海を見渡すことができた(写真1)。父は20年以上前に他界したが、その頃と周辺はあまり変わっていない。車で30分ほどの札幌市内は外国人観光客も多く、街並みは随分と変わっていたのとは対照的だ。都市部とそうでない地域との格差が広がりつつあることを実感した。

これもプライベートだが、5月に娘が結婚式を挙げ、念願だった?花嫁の父を演じることができた(写真2)。USJを望むホテルの結婚式場は、大安ということもあり、何組もの式が行われていた。こぢんまりとした式であったが、形にとらわれない娘らしい心のこもったものであった。花嫁の父が泣いたかどうかは別の問題だが、娘の配慮で式の開幕を告げる乾杯の発声を行った。考えてみれば世界を旅して、多くのセレモニーを見てきたような気がする。ルーマニアでは、私と同じように花嫁と父親の入場の場面にも出くわしたこともあった(写真3)。

外国映画でみる結婚式では、新婚カップルを乗る車は花で飾られ、空き缶を括り付けられていたが、そんな光景をシベリアのクラスノヤルスクで見たことがある。ウエディングドレスの花嫁と花婿が市内の観光名所を巡り、付き添ってきた友人、家族と写真を撮る姿にロシアの一面を見た気がした。それに対し、インドでは結婚式は2から3日間も行われ、花婿が盛大な楽隊とともに結婚式場のレストランやホテルに向かうシーンに何度も遭遇した(写真4)。結婚式当日のホテルに泊まったことがあるが、その日は運が悪いと思うしかないほど、うるさく盛大であった。日本にも花嫁行列の風習はあったと思うが、インドでは男性が、日本では女性が道を行くようで、これは文化の違いだろうか?

しかし葬式に関しては、なかなか直接見る機会はなかったかもしれない。ルーマニアの片田舎では、馬車に棺を乗せ、墓へと向かう場面に出くわしたことがあったが、しめやかな印象であった。対照的に、台湾でみた盛大な行列が思い出される。大きな爆竹の音や楽器の音、そして長い行列に驚いた記憶がある。昔の日本にも「野辺送り」の習慣があり、村全体で故人を送り出していたようだが、爆竹は鳴らなかっただろう。また、インド、ガンジス川のほとりでは、ご遺体に木を積み上げ、焼いているシーンにも出会ったこともあるが、不思議な感覚をおぼえた。今の日本では家族葬が全盛で、これは日本の今を反映しているのであろうか?

冠婚葬祭のセレモニーには、その国の宗教観、民族性が反映しているのであろうが、今を反映し、常に変わりつつあるものだろう。しかし、そこには一つの終焉と同時に、残された人たち、参加した人たちの新しい出発点のメッセージが込められているような気がする。だからこそ、セレモニーは重要だと思っている。悲しいことに現在、パレスチナのガザでは毎日のように虐殺が行われ、死者は白いビニール袋に詰められ、埋葬されている。残された人々の、新しい出発点のメッセージがない弔いが残念でたまらない。そして、これが世界で繰り返されていることに虚しさをおぼえる毎日だ。
  • 写真1.石狩市から望む日本海は静かであった
    写真1.石狩市から望む日本海は静かであった
  • 写真2.恥ずかしながら、花嫁の父の満面の笑顔をどうぞ
    写真2.恥ずかしながら、花嫁の父の満面の笑顔をどうぞ
  • 写真3.ルーマニアの教会で見た花嫁の入場の一コマ
    写真3.ルーマニアの教会で見た花嫁の入場の一コマ
  • 写真4.インドの花婿が式場に向かう、花婿行列の一コマ
    写真4.インドの花婿が式場に向かう、花婿行列の一コマ
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。
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