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ルシフェラーゼ連載エッセイ
連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~
生命科学の大海原を生物の光で挑む
投稿日 2025年05月21日

- 第 135 回 Elucをめぐる旅の物語-日本・大阪にて-
- 近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
少し身体にガタが来たのだろうか?3月、4月と入院した(写真1、2)。とはいえ、4月下旬には北海道を旅したのだから、周りが心配するほどのことも無いようだと本人は思っている。最後に入院したのは6歳の頃だから、病院とは縁遠い人生と思いこんでいたが、そろそろ気にしなくてはいけない年齢なのだろうか?しかしながら、一番大変だったのは24時間の点滴生活だった。夜中、点滴に不具合があると、看護師さんを呼ぶことになるが、申し訳なさを感じるとともに、毎回、適切な対応に頭が下がる思いがした。
毎年4月から大阪工業大学で非常勤講師として講義を行っている(写真3、4)。講義ではバイオテクノロジーにまつわる産業構造や、その周辺の知財や標準の考えを教えるかたわら、未来社会における日本のバイオテクノロジー産業の役割にも言及することにしている。特に、学生たちが社会の主役となる2050年の未来予想も話すことにしている。おそらく、人口は2割減の1億人前後、平均寿命が女性では90歳、男性では85歳となっているだろう。まさに高齢化率40%の超高齢化社会である。一方、高齢者が増える割に医療福祉分野では数10万から100万人レベルの人員不足が予想されていることも話すことにしている。
日本の未来を話すと、人口は減少しGDPは世界第7位前後となり、低成長社会の典型だろうと話してしまい、どうしても暗い話となる。私としては、若い方には現状と予想される未来社会を理解することが、就職活動を本格化する前の彼らには重要と思っている。が、あまりに悲観的な話かもしれない。ただし、講義の対象が生命工学を専攻する学生なので、バイオテクノロジーには未来社会を支える力があること、今後の世界は有形資産より人的資産がもっとも重要であり、やる気のある誰もが活躍できる世界であることも同時に伝えている。最後は楽観的な?見通しかもしれないが、現実問題として、低成長時代でも、やりようはあるというのが私の思いである。しかしながら、この年齢になると説教じみた話が多くなるのは仕方がないことなのか?内心嫌な気分にもなる。
講義では未来社会の予測とともに、バックキャストとフォーキャストの違いも教えている。しかし、私自身はバックキャストがあまり好きではない。多くの政治家や識者の語るバックキャストに疑問を感じるからである。私の好きなバックキャストは、映画「ターミネータ」である。皆さんは忘れているかもしれないが、ターミネータは2029年の未来を想定したもので、そこで描かれている世界はAIが世界をコントロールし、小型ドローンが人を殺戮する社会である。確かに、映画のように人を過去に送り返す技術はないだろうが、今の時代を的確に予想しているように思える。情報過多の現代人の想像力は、自分を含めて欠けているとも思う。
さて、病院に入院して思ったことは、日本は今のレベルで社会を維持できるかということである。AIやロボットが発展、科学技術の進歩は当然あるとしても、例えば、点滴の針を打てる看護師を24時間、確保だろうかという問題である。2050年になれば、すべては解決できるとは思えないし、予想される未来社会では平均寿命と健康寿命の差は、簡単には解消されない。よって高齢化社会の中では介護を含めて、人員確保が極めて厳しい時代になるだろう。せめて24時間の点滴をカバーできる薬を開発して欲しいものだと寝ながら思った。
毎年4月から大阪工業大学で非常勤講師として講義を行っている(写真3、4)。講義ではバイオテクノロジーにまつわる産業構造や、その周辺の知財や標準の考えを教えるかたわら、未来社会における日本のバイオテクノロジー産業の役割にも言及することにしている。特に、学生たちが社会の主役となる2050年の未来予想も話すことにしている。おそらく、人口は2割減の1億人前後、平均寿命が女性では90歳、男性では85歳となっているだろう。まさに高齢化率40%の超高齢化社会である。一方、高齢者が増える割に医療福祉分野では数10万から100万人レベルの人員不足が予想されていることも話すことにしている。
日本の未来を話すと、人口は減少しGDPは世界第7位前後となり、低成長社会の典型だろうと話してしまい、どうしても暗い話となる。私としては、若い方には現状と予想される未来社会を理解することが、就職活動を本格化する前の彼らには重要と思っている。が、あまりに悲観的な話かもしれない。ただし、講義の対象が生命工学を専攻する学生なので、バイオテクノロジーには未来社会を支える力があること、今後の世界は有形資産より人的資産がもっとも重要であり、やる気のある誰もが活躍できる世界であることも同時に伝えている。最後は楽観的な?見通しかもしれないが、現実問題として、低成長時代でも、やりようはあるというのが私の思いである。しかしながら、この年齢になると説教じみた話が多くなるのは仕方がないことなのか?内心嫌な気分にもなる。
講義では未来社会の予測とともに、バックキャストとフォーキャストの違いも教えている。しかし、私自身はバックキャストがあまり好きではない。多くの政治家や識者の語るバックキャストに疑問を感じるからである。私の好きなバックキャストは、映画「ターミネータ」である。皆さんは忘れているかもしれないが、ターミネータは2029年の未来を想定したもので、そこで描かれている世界はAIが世界をコントロールし、小型ドローンが人を殺戮する社会である。確かに、映画のように人を過去に送り返す技術はないだろうが、今の時代を的確に予想しているように思える。情報過多の現代人の想像力は、自分を含めて欠けているとも思う。
さて、病院に入院して思ったことは、日本は今のレベルで社会を維持できるかということである。AIやロボットが発展、科学技術の進歩は当然あるとしても、例えば、点滴の針を打てる看護師を24時間、確保だろうかという問題である。2050年になれば、すべては解決できるとは思えないし、予想される未来社会では平均寿命と健康寿命の差は、簡単には解消されない。よって高齢化社会の中では介護を含めて、人員確保が極めて厳しい時代になるだろう。せめて24時間の点滴をカバーできる薬を開発して欲しいものだと寝ながら思った。
写真1 病室から見る神崎川が、入院生活の一服の清涼剤。
写真2 移り行く季節を桜の開花で知る。
写真3 大阪工業大学のキャンパス風景。
写真4 大学の整備が急速に進むキャンパス。
- 著者のご紹介
- 近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。