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ルシフェラーゼ連載エッセイ
連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~
生命科学の大海原を生物の光で挑む
投稿日 2025年10月20日

- 第140 回 Elucをめぐる旅の物語-ルーマニア・ブカレストにて②-
- 近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
世の中は本来シンプルなものかもしれない。金曜日の夜、Obor市場の上の酒場でワインと音楽を楽しんだ(写真1−4)。流れる音楽に身を任せ、皆で踊り始め、大きな輪ができた。観光客などいないブカレストの庶民のための市場に、唯一の日本人の私に手を差し伸べ、ダンスをしてくれた若い女性と最後にハグをした。ワインのなせる業なのか、音楽のなせる業なのか、楽しい時間を共有できた。ワインは、当然、ルーマニア流のソーダで割った白ワインだ。見知らぬ人間であっても、お酒と音楽があれば、簡単に仲良くできるもの、世の中はシンプルなはずだ。と、これは酒飲みの自己弁護かな?
ルーマニアで暮らして1か月。日本に比べて急激に寒くなるのに驚かされた。ちょいと前なら半袖姿が当たり前なのに、この寒さとともにいきなり冬の装いとなり、コート姿が目に付く。確かに朝晩は10度以下が当たり前だ。9月下旬には早々と雪で道路封鎖とのニュースも流れていた。せっかちなルーマニア人にあっているのか、季節の変わり目に服装が一斉に変わったことに驚かされた。そんな中、野外で楽しむワインと音楽はルーマニア流だ。
これまで、ルーマニア人に対して、多様性をあまり感じていなかったが、よく見ると、髪の毛の色は黒髪、金髪、赤毛と、また、顔だちも鼻の高さ、形、口元と、驚くほど個性にあふれていることに気づかされた。確かにルーマニアの歴史をみると、元々ダキアと言われる民族をトライアヌスのローマが滅ぼし同化し、時代の経過とともに西方から十字軍が、東からモンゴル帝国が通り抜けたかと思うと、次にサラセン人の国が、さらにはハンガリー帝国の一部となるなど、また、インド発祥のロマ人も人口の10%いると言われている。よって、世界中の血がまじりあったのが、ルーマニア人であり、東西の十字路の真ん中の一を実感する。日本のようなシルクロードの終点であるような国とはどこか違うのだろう。
ルーマニアの踊りの一つは、すごく単純だ。輪になって踊る。確かにステップはあるので、上手い人と下手な人の差はあるが、基本は輪になるだけだ。上手い下手などは二の次で、手で感じる人のぬくもりを大切にしているような気がする。また、ワインだが、ソーダで割ることで、自分の好みのアルコール度数に変えることができるが、これも、老若男女が気軽に飲むことができ、輪になって飲むのにはちょうどいいお酒のスタイルである。これも東西の十字路に位置するルーマニア人の知恵ではないだろうか?
日本では移民問題から日本人ファーストなど、分けのわからんことをいう人が増えているようだ。ルーマニア自体は、移民を送り出す国で、ブカレスト大学の教官たちも、優秀な人材は他国に流出していることを危惧していた。一方、中東やアフリカ、アジアからの移民も増えつつあるようだ。実際、ベーシックワーカーの一部は老人と移民というのが、この国の一つの側面だ。おそらく、日本も移民とどう付き合うのか?排除ではない論理が必要だろう。
さて、世界を見まわしたとき、現在の十字路の中心は日本ではないだろうか?東に米国、西に中国、北にロシア、そして南にASEANにインドがある。十字路に立つ意識で世界に臨み、輪を作る勇気を、今こそ持つべきだろう。日本人は今、国民の真価が問われていることに気付いているだろうか?
ルーマニアで暮らして1か月。日本に比べて急激に寒くなるのに驚かされた。ちょいと前なら半袖姿が当たり前なのに、この寒さとともにいきなり冬の装いとなり、コート姿が目に付く。確かに朝晩は10度以下が当たり前だ。9月下旬には早々と雪で道路封鎖とのニュースも流れていた。せっかちなルーマニア人にあっているのか、季節の変わり目に服装が一斉に変わったことに驚かされた。そんな中、野外で楽しむワインと音楽はルーマニア流だ。
これまで、ルーマニア人に対して、多様性をあまり感じていなかったが、よく見ると、髪の毛の色は黒髪、金髪、赤毛と、また、顔だちも鼻の高さ、形、口元と、驚くほど個性にあふれていることに気づかされた。確かにルーマニアの歴史をみると、元々ダキアと言われる民族をトライアヌスのローマが滅ぼし同化し、時代の経過とともに西方から十字軍が、東からモンゴル帝国が通り抜けたかと思うと、次にサラセン人の国が、さらにはハンガリー帝国の一部となるなど、また、インド発祥のロマ人も人口の10%いると言われている。よって、世界中の血がまじりあったのが、ルーマニア人であり、東西の十字路の真ん中の一を実感する。日本のようなシルクロードの終点であるような国とはどこか違うのだろう。
ルーマニアの踊りの一つは、すごく単純だ。輪になって踊る。確かにステップはあるので、上手い人と下手な人の差はあるが、基本は輪になるだけだ。上手い下手などは二の次で、手で感じる人のぬくもりを大切にしているような気がする。また、ワインだが、ソーダで割ることで、自分の好みのアルコール度数に変えることができるが、これも、老若男女が気軽に飲むことができ、輪になって飲むのにはちょうどいいお酒のスタイルである。これも東西の十字路に位置するルーマニア人の知恵ではないだろうか?
日本では移民問題から日本人ファーストなど、分けのわからんことをいう人が増えているようだ。ルーマニア自体は、移民を送り出す国で、ブカレスト大学の教官たちも、優秀な人材は他国に流出していることを危惧していた。一方、中東やアフリカ、アジアからの移民も増えつつあるようだ。実際、ベーシックワーカーの一部は老人と移民というのが、この国の一つの側面だ。おそらく、日本も移民とどう付き合うのか?排除ではない論理が必要だろう。
さて、世界を見まわしたとき、現在の十字路の中心は日本ではないだろうか?東に米国、西に中国、北にロシア、そして南にASEANにインドがある。十字路に立つ意識で世界に臨み、輪を作る勇気を、今こそ持つべきだろう。日本人は今、国民の真価が問われていることに気付いているだろうか?
写真2 ツィンバロンの音が心地よく、音楽に酔いしれた夜。
写真3 音楽に合わせ、最初に小さな輪ができる。
写真4 音楽に合わせ、次第に輪は老若男女の大きな輪に変わっていく。
- 著者のご紹介
- 近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。
