カルナバイオサイエンス株式会社

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社長メッセージ

当社が臨床試験を実施中の次世代型BTK阻害剤AS-1763のフェーズ1b試験における安全性・有効性に関する初期データについて、2024年6月14日、マドリードで開催中の欧州血液学会(European Hematology Association 2024 Hybrid Congress)においてポスター発表が行われました。ポスターは“Preliminary safety and efficacy results from a Phase 1b study of oral non-covalent BTK inhibitor AS-1763 in patients with previously treated B-cell malignancies”(和訳:前治療歴を有する成熟B細胞腫瘍患者を対象とした経口・非共有結合型BTK阻害剤AS-1763のフェーズ1b試験における安全性・有効性に関する初期データ)と題し、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター白血病科教授Nitin Jain医師が発表を行いました。

本ポスター発表では、共有結合型BTK阻害剤(イブルチニブなど)およびBCL2阻害剤(ベネトクラクス)を含む複数の全身療法による前治療歴を有するCLL(慢性リンパ性白血病)を中心とする成熟B細胞腫瘍患者(すなわち、前治療薬が効かなくなったり、副作用の発現により投与ができなくなった患者)を対象に、2023年8月に最初の患者にAS-1763の投与を開始して以降、2024年4月までに投与した最初の4用量群(100 – 400 mg BID(1日2回投与))についての安全性、薬物動態および臨床的反応に関する初期データが公表されました。CLL患者では、血液中のリンパ球数の増加が認められ、また、リンパ節などの腫脹が観察されるので、治療薬の効果判定はリンパ節の大きさを定期的にCTで評価し、加えて血液中のリンパ球数などの増減を確認します。リンパ節の大きさが定められた基準以下に縮小し、リンパ球数が定められた基準以下に減少した場合をPR(Partial Response)、リンパ節の縮小は確認されているが、リンパ球数の減少が定められた基準に達していない場合をPR-L(PR with lymphocytosis)と言い、いずれも治療薬が良く効いていることを示しています。一方、リンパ節の大きさが一定以上の大きさまで大きくなった場合をPD(Progression Disease)と言い、治療薬が効いていないことを示しています。また、治療により、リンパ節の大きさや他の血液パラメーターが一定の範囲で維持されている場合をSD(Stable Disease)と言い、病勢が安定していることを表しています。臨床試験で治療薬を投与された患者は、治療中にPDになったり、副作用の発現で治療薬が投与できなくなるまで、薬物投与を継続します。

これまで治験に参加いただいた患者さんの結果を以下のスイマーズプロットと呼ばれる図に示します。横軸は各患者さんの投与期間(サイクル数)を示しており、28日が1サイクルです。2サイクルごとにCTでリンパ節の大きさを計測し、他の血液検査と合わせて、その時点でPR、PR-L、SD、PD等の効果判定が行われます。その結果が、棒グラフに●、■等で表示されます。また棒グラフ先端の矢印は投与が継続されていること(すなわち、投与を中止せざるを得ない副作用が出ていないこと、薬物が一定の効果を示していること)を示しています。用量漸増パートは100mgから始め、各用量で3名の患者を28日観察し、忍容性が確認されれば、次の用量に移行します。このようにして現在400mgの投与段階に至りました。今回の結果を見て、私が一番驚いたのは、最初にAS-1763の臨床試験に入っていただいた患者の方(100mgを1日2回経口投与)2名で、すでにリンパ節の縮小が観察され、今もAS-1763の投与が継続され、すでに投与期間が約9か月となったことです。試験前は100mgでの効果は限定的ではないかと思っていましたが、これだけはっきりした効果が認められ、また、耐性を生ずることなく効果が持続していることに驚くとともに、感動しました。200mgあるいは300mg投与群には、イブルチニブに耐性を示すBTK C481S変異を有する患者(¶§の印がついている)が含まれていますが、AS-1763はこのような患者の方にも効果が認められており、予想通りの結果が得られました。また、これまでAS-1763に起因する副作用によって投与中止、休薬または減量などは報告されておらず、高い安全性が示唆されました。

現在、更に高い用量で用量漸増パートを継続していますが、その後、用量拡大パートに移行し、いくつかの絞った投与量で多くの患者の方にAS-1763を投与し、更に有効性、安全性を検討していく予定です。まだ、初期段階のデータですが、AS-1763が今後のB細胞腫瘍患者治療に大きく貢献する治療薬になる可能性を示唆するものであり、今後の開発に期待しています。治験主導医師であるMDアンダーソンがんセンター白血病科教授のNitin Jain医師からも、「現在実施中のフェーズ1b試験で確認されたAS-1763の安全性および有効性に関する初期データは、共有結合型BTK阻害剤に不応または不耐となった患者さんでの有用性をさらに継続して評価することを支持するものであり、勇気づけられるものです。」とのコメントをいただいています。当社は、Jain教授および、治験に参加していただいている先生方と本臨床試験に全力で取り組み、一刻も早く患者の方のもとへAS-1763を届けられるよう努力してまいります。引き続き、皆様方のご支援をよろしくお願い申し上げます。

2024年6月

カルナバイオサイエンス株式会社
代表取締役社長 吉野公一郎