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連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2019年01月21日

近江谷 克裕
第59回 Elucをめぐる旅の物語-イスラエル①-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 行って、観て、考えなくては何もわからない。12月半ば、1週間ほどイスラエルに滞在した。香港経由でおよそ20時間後にたどり着いたテルアビブは、地中海に面した大きなビル群も見える緑豊かな街(写真1)。ここから車で北西に向かえば、半日で戦火のシリアに、そして南に向かえば、3-4時間で西パレスチナのガザに着く。そんなことを微塵も感じさせない、のんびりした街がテルアビブ。着陸間際に飛行航路を見て、香港から12時間もかかるのは緊張関係のあるアラブ諸国の上空を飛ばないためと初めて気づいた。
 噂によると入国審査は厳しく、特に、アラブ諸国に出入りした人間には厳しいとの事。しかし、何もなかったようにスムーズに入国。パスポート審査も和やかなものであった。聞いていた話と違う。ところが、出国時が大変だった。なぜ、以前、アラブ首長国連邦に入国したのか、二人の係員に何度も何度も同じことを尋問された。やはりアラブに対しては過敏であった。
 空港でヘブライ大のShimshon先生にピックアップされ、エルサレムに向かった。車中戸惑ったのは、イスラエル生まれのShimshon先生は英語読みのジェルサラムを多用、エルサレムやイェルサレムなどとは言わないこと。これは私の観光ガイド氏も同様で、日本の地図で表記されるヤッファはジャファ、エリコはジェリコ、そしてアッコンはアコと発音した。少ししかなかったイスラエルの地理の知識が混乱するだけ混乱。ヨルダンはジョルダンなのである。英語で会話するのだから当然かもしれないが、慣れるのに苦労した。
 12月のイスラエルにクリスマスツリーは期待していなかった。が、キリスト教徒が多く住むジャファやハイファの街には大きなツリーが飾られ、店先にもクリスマスグッズが売られていた(写真2)。一方、多くのムスリムの寺院も点在しアラブ人やトルコ人が在住することもわかった(写真3)。さらに政府公認のノマド、ベトウィン族の集落もジェルサルㇺ周辺には多くあった(写真4)。私の抱いていたイスラエルはユダヤ人、ユダヤ教の国家という定義は通用しない。
 さらにわからなくなるのはユダヤ人の定義である。ユダヤ人はユダヤ教の信者、或いはユダヤ人を親に持つもの。よってドイツ系、ロシア系ユダヤ人もいれば、エチオピア系ユダヤ人もいる。ガイドによれば、最近は中国系ユダヤ人の里帰り?も多いとか。Shimshon先生に言わせるとユダヤ人とはいろいろな人種の混ざりもので、自分でもパレスチナ人やアラブ人の顔を見ても区別はつかない。ただ、習慣や信じるものが違うだけとの答え。なぜ、彼らと戦うのか?多分、信じるものが違うこと、パレスチナ人が妥協しないことなどと、先生なら言いそうだ。
 私は科学者として「観考推洞」を大切にしている。4つの文字の後は「察」である。観察し、その結果を考察。次に仮説を作り推察し、根幹なるものを洞察する。この作業をし続けることが科学と思っている。但し、これは科学に限定されることでもないと思っている。実は昔読んだ藤本義一氏のエッセイの中で、先輩記者から言われた心に残る言葉として書かれていたものを拝借したもので、すべての世界で共通するだろう。
 インパクトの多かったイスラエルに行って、観て、考えてみたけど、何もわかった気にならなかった。考えても、考えてもわからない、不思議な国家がイスラエルということか?
  • 写真1 飛行機からみるテルアビブの街
    写真1 飛行機からみるテルアビブの街
  • 写真2 ジャファの街のクリスマスツリー
    写真2 ジャファの街のクリスマスツリー
  • 写真3 アコの街のイスラム教会
    写真3 アコの街のイスラム教会
  • 写真4 ベトウィン族の集落
    写真4 ベトウィン族の集落
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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