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ルシフェラーゼ連載エッセイ
連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~
生命科学の大海原を生物の光で挑む
投稿日 2025年01月20日
- 第131回 Elucをめぐる旅の物語-タイ、ラヨーンにて-
- 近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
タイのニューイヤーパーティーは12月の下旬に行われるものらしい。招聘教授を務めるVISTEC大学院大学の正月休みは24日から始まるが、その1週間ほど前から頻繁にニューイヤーパーティーなるものが行われる。要は日本の忘年会を、タイでは新年会ということになるらしい。よって、学生に聞くと新年明けの1月に日本人が思う新年会はなく、淡々と仕事が始まるそうだ。タイ人にとっては、年の暮れイコール新年かもしれない。全学で開催されたパーティーではお酒はないが、カラオケ大会有りのにぎやかなものだった(写真1)。
私がお世話になっているPimchaiラボでも16日に盛大なニューイヤーパーティーが開催された。仲の良いポスドクによると、コロナが明けて初めてのことで、久しぶりに開催されたとのこと。やっとコロナから解放されたのだろう。お酒もビール、ワイン、メコンウィスキーなどなど多種多彩なものが提供されていた(写真2)。私の知る限り大学院生やポスドク達は年長の先生の前でお酒を飲みたがらないが、今回は別なようだった。おとなしいと思っていた女性が、元気にお酒を飲み、大声で話すのを始めて聞いた。タイにも無礼講があるらしい。
今回のタイ訪問の目的の一つは、私の所属する産総研とVISTECとの共同シンポジウムの開催で、日本側から私を含めて9名の研究者が参加してくれた(写真3)。皆さん、VISTECがタイの田舎町のラヨーンにあるが、最新設備を兼ね備えた大学院大学があることに驚いていた。日本だけに居ては世界の流れは見えないと、声を大にして若手研究者には言いたい。
VISTECのバイオ技術の一つにメタン生産がある。日本にも古くからある技術だが、ここでは小型のメタン生産プラントを作り、学内の食品廃棄物を利用したガスの生産、残渣の農業利用、さらには農地の安全性評価など、一つのループの中に納まった研究を推進している。すでに、タイ北東部のナーン県でも同様にメタン生産プラントの実証試験を行っている。これを見た産総研の中堅研究者は、日本ではなかなか成立しなかったスケールで実用化試験していることに驚いていた。確かに、産総研の研究者は企業との共同研究を実践しているが、実用化研究といっても歯車の一つにしか過ぎなく、その最終産物を直接見ることは稀である。日本の研究者の蛸壺化、歯車化が気にはなる。
タイから帰国する前日に仲の良い子たちと、タイ風バーベキューを食べに行った。この料理は焼肉としゃぶしゃぶを一つにしたもので、ジンギスカン鍋を大きめにし、周りに熱湯があると思ってくれればイメージできるだろう(写真4)。これはバーベキューではないと思う方もいるだろうが、タイではこれがバーベキューである。「所変われば品変わる」なのだろう。
よって話を戻すが、タイ人にとっては12月だから1年を振り返り、忘れたいというマインドはなく、来るべき新年に期待を膨らませたニューイヤーパーティーなのだろう。また、研究の世界でも、今更のメタン生産と思う方もいるだろうが、タイの現状、サイズ感を考えれば、一つの答えなのだろう。タイにはタイの考え方、やり方がある。ともすれば、私たちは自分の常識、日本の常識で物事を考えてしまうが、世界に目を向ければ、当然違ったものになるのだろう。国ごとの違い、世代の違いを認め、それを楽しみ、あとで背景を理解するくらいの気持ちで十分だろう。世界で生きていくためには、
私がお世話になっているPimchaiラボでも16日に盛大なニューイヤーパーティーが開催された。仲の良いポスドクによると、コロナが明けて初めてのことで、久しぶりに開催されたとのこと。やっとコロナから解放されたのだろう。お酒もビール、ワイン、メコンウィスキーなどなど多種多彩なものが提供されていた(写真2)。私の知る限り大学院生やポスドク達は年長の先生の前でお酒を飲みたがらないが、今回は別なようだった。おとなしいと思っていた女性が、元気にお酒を飲み、大声で話すのを始めて聞いた。タイにも無礼講があるらしい。
今回のタイ訪問の目的の一つは、私の所属する産総研とVISTECとの共同シンポジウムの開催で、日本側から私を含めて9名の研究者が参加してくれた(写真3)。皆さん、VISTECがタイの田舎町のラヨーンにあるが、最新設備を兼ね備えた大学院大学があることに驚いていた。日本だけに居ては世界の流れは見えないと、声を大にして若手研究者には言いたい。
VISTECのバイオ技術の一つにメタン生産がある。日本にも古くからある技術だが、ここでは小型のメタン生産プラントを作り、学内の食品廃棄物を利用したガスの生産、残渣の農業利用、さらには農地の安全性評価など、一つのループの中に納まった研究を推進している。すでに、タイ北東部のナーン県でも同様にメタン生産プラントの実証試験を行っている。これを見た産総研の中堅研究者は、日本ではなかなか成立しなかったスケールで実用化試験していることに驚いていた。確かに、産総研の研究者は企業との共同研究を実践しているが、実用化研究といっても歯車の一つにしか過ぎなく、その最終産物を直接見ることは稀である。日本の研究者の蛸壺化、歯車化が気にはなる。
タイから帰国する前日に仲の良い子たちと、タイ風バーベキューを食べに行った。この料理は焼肉としゃぶしゃぶを一つにしたもので、ジンギスカン鍋を大きめにし、周りに熱湯があると思ってくれればイメージできるだろう(写真4)。これはバーベキューではないと思う方もいるだろうが、タイではこれがバーベキューである。「所変われば品変わる」なのだろう。
よって話を戻すが、タイ人にとっては12月だから1年を振り返り、忘れたいというマインドはなく、来るべき新年に期待を膨らませたニューイヤーパーティーなのだろう。また、研究の世界でも、今更のメタン生産と思う方もいるだろうが、タイの現状、サイズ感を考えれば、一つの答えなのだろう。タイにはタイの考え方、やり方がある。ともすれば、私たちは自分の常識、日本の常識で物事を考えてしまうが、世界に目を向ければ、当然違ったものになるのだろう。国ごとの違い、世代の違いを認め、それを楽しみ、あとで背景を理解するくらいの気持ちで十分だろう。世界で生きていくためには、
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写真1 VISTECキャンパス内にステージが、屋台もでます。 -
写真2 キャンパス内のPimchaiハウスの下でパーティーが開催される。 -
写真3 ジョイントシンポジウムに参加メンバーとPimchai先生との記念写真。 -
写真4 タイのバーベキューは焼肉としゃぶしゃぶが同時にできる。
- 著者のご紹介
- 近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。