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連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2019年06月24日

近江谷 克裕
第64回 Elucをめぐる旅の物語-いつものイタリア・ボローニアにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 みんな思っていることは同じなんだ。2日目の会議が終わり、ベテラン?3人だけで夕食に出かけた(写真1)。いろいろな話がでたあたりで、最近の若い研究者、大学院生は5,6時に帰ってしまうとボローニア大のAldo先生が愚痴ると、エルサレム大のShimshon先生も同調した。エルサレム大では兵役の後に大学に入ることから、大学院生には家族持ちが多く、やはり早く帰ってしまうとのこと。私も最近の日本の若手研究者もサラリーマン化したと、話はさらに盛り上がった。結局は、自分の頃はもっと研究に集中し頑張っていたのに、今の若い連中は何だという、古今東西、同じパターンとなった。
 そんな中、Aldo先生は研究者を辞めたら、どうしよう?趣味がないと言い出した。ゴルフも好きだが、やっぱり研究が趣味と言い、リタイアしたらどうしようかという話題になった。お二人は70歳前で、そろそろリタイアの時期。こんなに研究がしたいという二人には、自分がやりたい研究が、このまま終わってしまうかもしれない、もどかしさもあるようだ。ヨシはどうするのかと聞かれ、研究したいテーマはいくつかあるし、研究は続けるつもりであるが、いよいよ研究ができないなら、招聘教授を務めるタイに行ってでも研究を続けたいと話した。問題は私もAldo先生と同様に、趣味らしい趣味がないことなのかもしれない。
 逆に、私は国際学会の評議員とか、国際学術誌の編集長をやっているが、辞め時はいつか悩んでいると相談した。Aldo先生曰く、「やれるだけやれば良い、辞めたくなったらやめれば良い。私はまだやる」という。若い人が聞いたら老害だけど、確かに先生の御意見はごもっとも。気力があるなら、経験値を生かすべきだ。さらにAldo先生には3人の准教授がいるが、素直に自分のいなくなった後の人事の話してくれ、イタリアの大学の制度の難しさも話してくれた。いずこも自分の後釜を決めていくのは簡単なことではなさそうだ。
 6月中旬、ボローニアは連日、30度を越す暑さ。街には薄着の男女が溢れ、女の子の薄着には目のやり場に困るほど。でも、ボローニアの中心街には全長18kmに及ぶ回廊があり、その下を歩いている限りは太陽を浴びることもなく、回廊を吹き抜ける風は実に心地良い(写真2)。例えるなら、8月の猛暑の札幌のような暑さと乾いた空気だ。夕方には街のあちこちに人々の歓談の場ができ、夜遅くまでこの季節を楽しんでいる(写真3)。とはいえ、今が一番、良い季節のようで、暑すぎる8月は街から人がいなくなるそうだ。
 ベテラン研究者の夕食会で、最後に私は粗相をしてしまった。何と、二人のペースで前菜を山ほど食べた後にパスタ(写真4)を食べたら、食べ過ぎで気持ちが悪くなったのである。お酒は飲めるのだが、全く食を受け付けない。お二人は私を見て、メインの魚を諦め、甘いものを食べ始めた。生々しい話は書けないが、甘いものでさらに気持ちが悪くなったのである。帰り道、夜の11時なのに開いているジェラート屋さんの前を通り過ぎる時、Aldo先生がまだ物足りなさそうだったことを付け加えるが、70歳にして、この食欲はなんだろう。
ここ最近、日本でも元気な私よりベテランの方々と食事する機会があるが、一様に彼らの食欲に驚かされる。元気な方ほど食がしっかりしている。私が、元気な上の世代の方と同じと言えない瞬間である。私はちゃんと70歳を迎えることができるのか、心配なこの頃である。
  • 写真1 右からAldo先生、Shimshon先生、それに私。お二人はスイートに目がない。
    写真1 右からAldo先生、Shimshon先生、それに私。お二人はスイートに目がない。
  • 写真2 回廊はコミュニケーションの場
    写真2 回廊はコミュニケーションの場
  • 写真3 夜のボローニア大学の付近。学生達が多く、活気に溢れている。
    写真3 夜のボローニア大学の付近。学生達が多く、活気に溢れている。
  • 写真4 発泡ワインを3人で3本空ける間のパスタはボディブローのように効く。
    写真4 発泡ワインを3人で3本空ける間のパスタはボディブローのように効く。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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