カルナバイオサイエンス株式会社

製品検索
  • Home
  • ルシフェラーゼ連載エッセイ

ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年03月17日

近江谷 克裕
第13回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- 南ドイツにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
鉄道オタクではないし、ノリ鉄ですなど、怖くて言えない。しかし、鉄道の旅は好きだ。走り去る車窓の風景が好きなのである(写真1)。海外出張、特にヨーロッパでは、可能な範囲で鉄道の移動を入れている。2月のはじめ、ミュンヘンーフォルツハイム(Pforzheim)−フランクフルトと鉄道の旅をした。と言っても、遊びに行ったわけではなく、フォルツハイムの友人の会社を訪ねたのである。Anselm Bertholdは10年来の友人であるが、彼は研究者ではなく、発光を測定するルミノメータを製造・販売するBerthold Detections System社の社長である(写真2)。国際学会で知り合ったのであるが、同年代でもあり、良き酒飲み友達である。

フォルツハイムは第二次世界大戦に大規模な空襲を受け、ドイツの他の街とは異なり、古い建物は残していない。しかし、小奇麗な現代風の街並みがある落ち着いた街である。また、ここは昔から精密機械の製造が盛んな地域である。Anselmもまた、この街で20名ほどの社員を守る中小企業の社長である。なお、彼の父親は日本にも関連会社ベルトールジャンパンを持つBerthold Technology社のオーナーである。

彼によると、ドイツ全体で好調といわれる経済。特に南ドイツは景気が良く、彼の会社も好調とのことである。噂どおり中国への輸出は好調らしい。中国では模造品などが作られ、大変ではないかと質問したが、Berthold社の製品を販売する市場が大きいわけでなく、また、ノウハウが詰まった製品なので、そうマネされることはないとのこと。中国に進出してまで生産する気はないが、長期的にもドイツの中小企業にはうまみのある市場とのことである。大きくもなく、小さくもない市場のニーズを的確につかむことが中小企業では重要なのだろう。中国と付き合う、よい見本のような気がした。

私たちの共通の話題の一つは発光測定である。発光の測定は意外と厄介であり、高精度の測定装置を作れるのは主にドイツ、北欧、日本くらいである。そう簡単に他の国にはマネできない。Anselmの話で驚いたことだが、彼の会社の技術革新を支えたのが東西ドイツの融合により加わった旧東ドイツの物理系技術者であった。東西融合のリスクも語られるが、もたらされた恩恵も大きいようである。今のドイツの経済を考えるうえで重要な視点かもしれない。

また、私たちは発光測定の標準化の情報交換をしている。前述したように発光測定装置を作れる国は少ない。しかしながら各測定装置から得られたデータは、装置ごと、測定日ごとに値が異なるのである。これを解消するため、彼は標準光源を販売しているし、私も企業と協力して発光色の異なる標準光源を開発した。これらを世界共通で使えないかと考えている。

さて、ドイツの鉄道を見ていると、日本人とドイツ人の違いが見えるような気がする。ローカル線ではかなりファンキーなものは珍しくなく、見ていて楽しい (写真3)。一方、ドイツ鉄道Intercityは、多くのビジネスマンも利用する厳格に走る快適な列車であるが、日本の新幹線に比べれば、高速化は遅れている。あえてスピードを求めていない。また、座席の方向は固定され、あえて不便さを解消していない。この辺がドイツらしいのである。ドイツ人はどこか、頑固で、あえて変えないことでバランスをとっているような気がする。それが、ドイツ人らしさの一つかもしれない。
  • 写真1: ミュンヘンからフォルツハイムへの車窓の風景
    写真1: ミュンヘンからフォルツハイムへの車窓の風景
  • 写真2: Berthold Detections System社にて友人のAnselm Berthold
    写真2: Berthold Detections System社にて友人のAnselm Berthold
  • 写真3: ファンキーなローカル鉄道
    写真3: ファンキーなローカル鉄道
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
LinkedIn