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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年04月09日

近江谷 克裕
第14回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- 北イタリアにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
ヨーロッパで、どこが好きかと言われればボローニアと答える。街歩きが楽しいし、食べ物がとにかくおいしい。ワインも、特に発砲系の赤ワインがおいしい。学生数は多いが、観光客が少ないのも、理想的である。雨や雪の日でもポルティコ(屋根付きアーケード)を歩けば、全く快適である(写真1)。ヨーロッパ最古の大学があり、古い街並みの中に突然現れる塔もボローニアらしい。まさに大学の街、塔の街である。

もう一つのボローニアと言えば肥満の街。アドリア海からも遠くなく、海の幸も豊富。肥沃なポー川周辺の豊かな大地の恵みは最高の料理を提供してくれる。ボローニア人 (ボロネーゼ)にとってメインメニューの前に食べるものがパスタであり、前菜に近いらしい(が、日本人には主食にみえる)。今回訪ねたボローニア大学Aldo Roda先生との夕食では軽め?に二つのパスタを食べた後に、メインの肉となった。さすがに胃の小さな日本人を思ってくれ、魚の料理と大げさなケーキは食べなくてすんだ。前菜のタリアテッレ(写真3)は日本でいうパスタのポロネーゼにあたるものだが別物だろう。これが絶品である。肥満を覚悟しても食べたくなる。

Aldoの片腕はボローニア美人のElisaである(写真2)。私は今、ISBC(国際生物発光化学発光学会)の会長を務めているが、この前任がAldoであり、学会の現幹事がElisaである。ISBCは設立されたのは1980年代、次回2016年にはつくばで19回目の国際シンポジウムを開催する。私がこの学会に初めて参加したのは1994年のイギリス・ケンブリッジであり、1998年にはボローニアで参加した。その頃からAldoは陽気な、しかしながら強かな、先進的な研究を進める欧州の中心的な研究者であった。

生物発光を研究する研究者は世界的にみても、それ程を多くない。でも、私が始めたころは、欧米の若い研究者の参加が多かった。しかしながら、ここ最近は欧米の研究者の減少が目立っている。特に基礎研究では、その傾向がある。それ程、注目されている分野ではないので、しょうがないかもしれないが、少々さびしい。その中にあって、Aldoはヨーロッパのボスであり続け、ボローニア大を拠点とし、Elisaを始め若手を確実に育てている。歴史あるボローニア大学らしさ、強かさかもしれない。だからこそ、1,000年近い歴史があるのだろう。

話の途中、Aldoは三次元プリンターを自慢げに見せてくれ、自作した発光を利用したバイオセンサーを紹介してくれた。検出器はiPhoneだ。相変わらず強かな研究者だ。これがボロネーゼらしさかもしれない。中世ボローニアにおいて、ボロネーゼは塔の高さを争い、多くの塔を建てた。Aldoは典型的なボロネーゼ、常に先に行こうとするのは血のせいかもしれない。

ボローニアに行く前日、ミラノ大学の友人を訪ねた。彼女はミラノっ子(ミラネーゼ)である。聞くところによると彼女のご主人もミラネーゼ。ミラノ大で働く多くのスタッフも学生もミラネーゼが多いらしい。ローマ帝国の時代、人々は帝国内を自由に、或は仕事で移動、其処彼処に定住したようだが、中世以降は地方ごとに国家が生まれ、それが現在まで続いているように思える。日本の脱個性化された地方とは大きく異なることも、イタリアらしさかもしれない。さて、彼女がご馳走してくれたのが、ミラノ風の牛煮込みリゾット(写真4)。リゾットはサフラン色。ボロネーゼとミラネーゼの違いを実感した。
  • 写真1: ボローニア市内のポルティコ
    写真1: ボローニア市内のポルティコ
  • 写真2: ボローニア大学の 
Aldo Roda教授の部屋にて
    写真2: ボローニア大学の
    Aldo Roda教授の部屋にて
  • 写真3: ボロネーゼが愛する
パスタ・タリアテッレ
    写真3: ボロネーゼが愛する
    パスタ・タリアテッレ
  • 写真4: ミラネーゼが愛する
ミラノ風リゾット
    写真4: ミラネーゼが愛する
    ミラノ風リゾット
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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