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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年06月12日

近江谷 克裕
第16回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- ニュージーランドにて②
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
ニュージーランドで久しぶりに天の川を見た(写真1)。同行者の一人は、オリオン座大星雲が図鑑に描かれているように光る雲であることに、しばし言葉を失った。「図鑑が正しかったんだ」との一言にみんなで笑ってしまった。おそらく日本にいる限り、明るすぎてオリオン座大星雲は見ることはできないだろう。現場に行って、見てみなければわからないことは、世の中にはたくさんあるような気がする。

天の川を見たのは、アラキノカンパの生息するワイトモ洞窟の近くの小さな渓流の側の駐車場。ワイトモ洞窟のアラキノカンパは観光名所であり、日本人でも行かれた方は多いだろう。この洞窟には多くのアラキノカンパが生息し、日中でも観察可能である。まるで青色のLEDがびっしりと集まっているかのようで、騙されているような気になる。確かにきれいだけど、自然なのに不自然で、面白味を感じない。たぶん、初めて見る方は大感動するだろうが、

私が好きなのは、無料で楽しめる野外のアラキノカンパ。野外では、洞窟ほどびっしりとは生息していない。また、日中探しても、見慣れた私でさえ、発見するのは難しい。どこにいるかもわからないアラキノカンパたち。でも暗くなると明かりを灯しはじめる。渓谷のアラキノカンパの光を下からたどっていくと、いつの間にか星と混じり合う光となる。これが好いのである。あまり人が来ない渓谷で、しばし呆然としながら光を追う、これが好いのである。

アラキノカンパは双翔類の一種。幼虫は糸ミミズのような風体で、糸を張って、その中に生息する(写真2)。光は食物であるムシを誘引するため、光を目がけやってくるムシを糸でトラップする。何度か観察したが、数十分以上、光り続けるが、なかなか獲物は捕まらない。一所懸命に光ることで餌を確保したいようである、が、赤ちょうちんのように上手くおっさん達を誘うことはできないようである。

光る生物の発光色には、それなりに意味がある。海棲のものには青色の光が多いが、青い海原で姿を隠すために使われていると考えられている(いわゆるカウンターシェーディング)。ホタルイカは深海から浅瀬に上る時、自分の影を隠していると考えられる。また、小型の発光サメは腹部が発光することで、これも自分の影を消し、深いところから襲ってくる大型のサメから身を隠していると考えられる。

一方、陸生のホタルなどの光る甲虫は、発光色が緑から黄色が中心であるが、これは雌雄の交信や威嚇のためと考えられ、地上で目立つ、光の色である。海の発光生物に多い青色の光をどうしてアラキノカンパは発するのだろう?逆に、渓流に生息する発光貝ラチアはどうして緑色の光を発するのだろう?(写真3)ニュージーランドで感じるのは、発光生物の不思議さばかりである。

最後に、ニュージーランドで必ずでるお話。「平均的日本人が一生の間に見ることができるヒツジは何頭だろう?今日一日で一生分見たよ」、「迷える子羊っているの?食いしん坊のことだろう(写真4)」というわけで、これもニュージーランドに行って、見てみなければわからないこと。

(今回の写真は、同行した三谷 恭雄博士、二橋 亮博士より提供。感謝)
  • 写真1: 夜空に輝く星たち
オリオン大星雲の撮影は難しい
    写真1: 夜空に輝く星たち
    オリオン大星雲の撮影は難しい
  • 写真2: 青く輝くアラキノカンパは
自ら作った糸の中で食べ物をひたすら待つ
    写真2: 青く輝くアラキノカンパは
    自ら作った糸の中で食べ物をひたすら待つ
  • 写真3: 発光貝ラチアは緑色の発光液を出す
    写真3: 発光貝ラチアは緑色の発光液を出す
  • 写真4: 我々に驚いて一糸乱れず退散する
ヒツジたちの横で草をむさぼるヒツジ
    写真4: 我々に驚いて一糸乱れず退散する
    ヒツジたちの横で草をむさぼるヒツジ
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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