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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年07月15日

近江谷 克裕
第17回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- ジャカルタにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
断言するが、世界で一番おっさん率が高い国際線はジャカルタ便だ。さしずめ国内線なら伊丹・羽田路線だろうが、共通するのは、自分も含めておっさんが多すぎることだ。暑い国に行くはずなのにスーツの率が高く、昼間の便でも何故か、スーツ姿にビールなのである。今回は日曜日の便だったが、家族の元を離れ、明日から仕事。ちょっと寂しげに見えるのもこの便の特徴だ。驚くほど、多くの企業戦士がジャカルタ スカルノ・ハッタ空港に降り立つ光景は、少し異様だけど、ちょっと面白い。

この数年間、年に数回はインドネシアを訪問している。惜しくも光る生物を採取する仕事ではなく、私が所属する産総研とインドネシアBPPT(製品評価・開発研究機構)との共同研究の世話人のような役割のためである(写真1)。そんな中、BPPTサイドから若手の人材育成を頼まれ、年に数回、産総研の仲間と出前講義を行なっている。

BPPTの研究者には日本組と豪州・欧州組に分けられる。これは留学先の事であり、比較的イスラム教徒に寛容な国が選ばれている。男女の区別はなく、大学院修士課程や博士課程を日本で過ごした方が多く、思わぬ方向から日本語で挨拶される。だから、日本人同士の会話は要注意。緊張感を持って過ごすことが必須。内緒話などはもってのほかである。また、女性研究者の多さにも驚かされる。よって失礼が無いようにと、ちょっと緊張する。特に、懇親会などで、日本人だけがお酒を飲むことになるが、これは要注意。ホテルに戻って、日本人同士で、ホッとしてビールを飲み始めると、やっと一安心できる。

北から南、或は東から西まで4,000km以上あるインドネシアは、生物の多様性そのものの国である。その一例が世界的にも有名なボゴール植物園である(写真2, 3)。さすが、オランダの統治時代に作られた植物園は、インドネシア全島を含めた各地から集められた植物が、広い敷地に生い茂っている。これまで3回ほど訪問したが、いつも時間切れで、行くたびに新発見がある。一方、違った驚きは、共同研究でお世話になったブリジストンさんのお蔭で訪ねたゴム園(写真4)。全てが均一で、整備され、虫も飛ばない広大な敷地に整然と並んだゴムの木は、プランテーションとは何か、植民地とは何か教えてくれる。

さて、インドネシアでは実学が優先される。よって例えば、ホタルは何種類いるかと質問しても答えることはできない。これは中国を含めアジア全般に言えることで、日本のように博物学が市民権を得るには、それなりの基礎科学の発展が重要であることは言うまでもない。BPPTでは、なるべく実学に近いことを教えているが、少しずつでも基礎的なものを教えることができればと思っている。BPPTの若手研究者と虫取りでもしようかと言うと、決まって上司が許してくれないと、若手研究者は苦笑いをするばかりである。

ところで、ジャカルタ市内の名物は交通渋滞。交通渋滞はインドでもタイでも、中国でも経験したが、これほどの渋滞はない。当然のように高速道路にも、渋滞目当ての物売りたちがいる。面白いのは、その物売りたちに交じって音楽を奏でてチップを得る奴らもいること。「忙しさ」と「のんびりさ」が入り混じる都市がジャカルタかもしれない。日本から訪れるおじさんたちも、この「のんびりさ」があればこそ、明日も元気に働けるのかもしれない。
  • 写真1: 
インドネシアBPPTバイテクセンター前にて
現地スタッフと記念写真
    写真1:
    インドネシアBPPTバイテクセンター前にて
    現地スタッフと記念写真
  • 写真2: 
ボゴール植物園、巨大な木々に圧倒される
真ん中に4人の女性がいる
    写真2:
    ボゴール植物園、巨大な木々に圧倒される
    真ん中に4人の女性がいる
  • 写真3: 
ボゴール植物園、よく整備されているが、
その多様性に驚かされる
    写真3:
    ボゴール植物園、よく整備されているが、
    その多様性に驚かされる
  • 写真4:
ゴム園にて、樹液を取る前の作業を
確認する現地スタッフ
    写真4:
    ゴム園にて、樹液を取る前の作業を
    確認する現地スタッフ
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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