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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年10月15日

近江谷 克裕
第20回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- 富山にて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
あなたは動物園派、水族園派、それとも植物園派?私は断然、水族園派である。発光生物が水に関わるものが多いせいかもしれないが、フワフワ浮いている、漂っている感じが自分に合うようだ。でも、マグロって速すぎない?漂っていないよね、という意見が聞こえそうだが、先日、葛西の水族園で生き残ったマグロは他の若いマグロとは違い、堂々と漂いつつ、孤高に遊泳していた。世界を漂い続ける私には、やっぱり水族園がイイ。

さて10月初旬、インドネシアに出張したが、帰国後、羽田からまっすぐ富山に向かった。10月初旬にしか現れない発光ゴカイを採取するためだ。ゴカイなどは国内の海岸を探せば、どこにでも、いつでもいるようなものだが、富山県魚津で見つかった発光ゴカイ「オドントシリス」は、10月初旬の富山以外で採取できたという話を聞かない。だから、この発光生物を研究するためには、この時期を外せない。海外出張からまっすぐに富山に行ったわけである。

オドントシリスの発光の研究は古く、1492年にカリブ海で発見されたという記録がある。ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応であることは、1952年に生物発光研究の第一人者であるHarvey博士が証明している。日本においては、堀井氏が1982年に魚津で発見、面白いことに日没後30分くらいに現れ、採取を始めて30分後にはいなくなる(一日実質労働30分の出張?)。
ゴカイ全身から発光液を放出する(写真1)が、一度、発光しながら円を描くように泳いでいる幻想的な姿を見たことがある。我々が灯りを海に照らしていると、それに集まってくるので採取できる(写真2)。おそらく、この光は交配のため?でも目がないよね。

この発光ゴカイの研究対象としての魅力は何であろう?最も大きな魅力は発光色。以前にも書いたが、海洋の発光生物の発光は青色が中心で480nm以下の光となる。一方、陸生の発光生物は緑から赤色、波長でいうなら540-630nmとなる。これに対して、オドントシリスは510nmで緑と青色の中間色である。天然では、これまで手に入れることができなかった光の色。ルシフェリン、ルシフェラーゼの構造もわかっていない。挑戦しがいのある相手である。

我々がいつもお世話になっているのは魚津水族館。1913年に開設された水族館は100年の歴史を持つ。この水族館と発光生物の関わりは古く、1914年、マツカサウオが発光することを停電の夜に見つけ、世界に先駆けて発表した。また、ホタルイカの展示もユニークであり、3〜5月になれば、直接、ホタルイカを観察できる(写真3)。我々はホタルイカも研究しており、この数年、春はホタルイカ、秋は発光ゴカイと、年二回のペースで仕事している。この発光生物調査のもう一つの楽しみは、水族館の方々との飲み会(写真4)。稲村館長を始めとした学芸員、飼育員の方々との語らいには、生物研究の原点を再認識させてもらえる。

そういえば、今年の夏、葛西臨海水族園で高校生、大学生に生物発光の話をした。せっかくの機会ということで、発光貝ラチアやウミホタルのサンプルを直接触れてもらった。手の上で光る発光生物に、無表情の彼らの目の色が変わった。私の迷走する光る生物談義は、実際の光を見てもらうことで、何とか結末を迎えることができた。私が漂い続けるのは生物の光を観たいということ。皆さんに少しは理解してもらったような気がした。
  • 写真1:採取したオドントシリス
刺激すると発光する
(産総研 三谷恭雄 撮影)
    写真1:採取したオドントシリス
    刺激すると発光する
    (産総研 三谷恭雄 撮影)
  • 写真2:富山湾にて
発光ゴカイの採取風景
(産総研 三谷恭雄 撮影)
    写真2:富山湾にて
    発光ゴカイの採取風景
    (産総研 三谷恭雄 撮影)
  • 写真3:ホタルイカの姿
触椀の先端の黒い点が発光器
(産総研 三谷恭雄 撮影)
    写真3:ホタルイカの姿
    触椀の先端の黒い点が発光器
    (産総研 三谷恭雄 撮影)
  • 写真4:魚津水族館稲村館長を囲んでの
海の生物談義
    写真4:魚津水族館稲村館長を囲んでの
    海の生物談義
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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