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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年11月20日

近江谷 克裕
第21回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- インドにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
わたしは「れ・い・が・い」?インド滞在4日目の朝、前日同様カレーを食べる私に、同行者から「近江谷さんはインド人と同じね」とのご意見。同行者たちは、もうカレーは飽きた、違うものを食べたいと言うが、私の場合は気にならず、4日目の朝もまた、カレーに手が伸びてしまった。朝はドーサ・マッサーラに限るなんて、カレーと一緒に食べてしまう。この日の夜もカレーのはず(写真1)。インドに滞在しても、最近はお腹をこわすこともなく、お腹の調子は日本より良いくらいだ。「近江谷さんは例外だよ!」と、朝から言われてしまう。

11月初旬、私の所属する産総研バイオメディカル研究部門とパンジャブ大学、インド工科大学の二つの大学との協定を結ぶためインドに滞在した。パンジャブ大学はインド屈指の名門大学の一つであり、チャンディーガルにある。チャンディーガルはデリーの北方に位置し、ハリヤーナー州とパンジャブ州の州都である。インドでは珍しい整然とした計画都市であり、多くの花が咲き乱れる過ごしやすい街である。パンジャブ州はインド中でも金持ちな州ともいわれ、芳醇な大地の恵みは豊かである。よって食べ物が、と言ってもカレーやタンドリーチキンだが、とても美味しい。美食の街である。

インドで驚くことは街の中は喧騒、雑然、混沌で言い表される世界(写真2)だが、大学や国の機関の敷地に入ると、驚くほどきれいなことである(写真3)。清潔で静粛な敷地内、学生や研究者たちは芝生の上でのんびりしている姿が印象的である。これこそ、インドの例外かもしれない。もっと面白いことに、インドでは研究者自身が例外的な存在である。研究者という職業はインドのカースト制が生まれた時代にはなかった職業であり、カースト制に縛られることのない職業なのである。

では、例外とは何だろう?それを決めるには基準、標準が必要だろう。産総研には長さや重さの原器があり、これを元にメジャーは校正され、正確に長さや重さを計測できるので、これによって例外は判断できる。バイオの世界でも今、標準が重要視され、国際標準化機構ISOではTC276としてバイオ技術の標準化が進行しつつある。ここではバイオ技術の、例えば、細胞数の計測法や細胞の品質管理法なども決められるようである。どの標準が採用されるかによってはバイオ研究の進展にも影響が出る。よって、国と国が決まりを競う、まさに現代の戦争でもある。私自身も、この「知の戦争」に参加している。開発した生物発光技術が皆さんに使われるためにも、発光する細胞の光の計測法や毒性評価細胞の品質管理法などでは私たちの方法が標準化できないかと考えている。

さて、今回の旅、チャンディーガル空港で予約していたドライバー氏の出迎えがなかった。しょうがないので、自力でホテルに行った。が、ドライバー氏の主張は、空港に行ったが日本人は居なかったということらしい。つまり、彼は私に気付かなかったようである。実は正確に言うと、ネルージャケット姿でサングラスをかけた私は、ドライバー氏の想像する「標準的な」日本人の埒外だったのことようだ(写真4)。「やっぱり近江谷さんは例外ですよ」ということで、話は終わってしまった。
  • 写真1:インド料理はやっぱりカレーです
    写真1:インド料理はやっぱりカレーです
  • 写真2:誰もが先をいそぐ、
インド名物の混沌した道路状況
    写真2:誰もが先をいそぐ、
    インド名物の混沌した道路状況
  • 写真3:インドCSIR微生物工学研究所
構内はごみ一つない
    写真3:インドCSIR微生物工学研究所
    構内はごみ一つない
  • 写真4:真ん中ににいる私は
ネルージャケットを着ております
    写真4:真ん中ににいる私は
    ネルージャケットを着ております
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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