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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2016年01月19日

近江谷 克裕
第23回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- アメリカ、ポートランドにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
ポートランドの冬は湿った寒さ、ボストンの冬は乾いた寒さ。妙に言い当てている。同じように雪は降るが、西海岸と東海岸では違った冬となる。ポートランドに住むボストニアンの友人Mattの言葉にうなずいてしまった(写真1)。しかし、この湿った寒さは、インドから来た身にはつらかった。時差を解消する前に、身体の芯が冷え切り、冬眠してしまいそうである。

オレゴン州ポートランドはウィラメット川の下流にある街。そこそこの大きさを持つ地方都市の一つ。私が訪問したオレゴン健康科学大学(OHSU)は山の上に建つ病院を兼ね備えた大学である。山の上に建つため、患者さんに不便だということから、なんとロープウェイで麓と大学病院つなげてしまったとか(写真2)。Mattに言わせると職員は無料で、ちょっと観光気分になるとか。でも、ポートランドは公共交通の時間が限られており、研究で遅くなると帰宅できなくなるので、普段は車で通勤しているとのこと。彼はOHSUの楽しみを、毎日は享受できないようである。

Mattはお父さんの仕事の関係で、子供時代に日本で育った経験があり、日本語も上手い。北大の共同研究先にUCバークレー校からの交換留学生として滞在している時に出会ったから、かれこれ15年くらいの付き合いになる。大学院生、ポスドクを経て、今は立派にPIとしてOHSUで活躍する彼のラボ(写真3)を見学したくて、ポートランドを訪ねた。初心の志を通して、研究職についた若手研究者をみるのは清々しいものである。

彼の研究テーマは体内時計と食の関係。以前はシベリアンハムスターを用いて、季節変化に伴う光と体内時計の関係を研究していたが、今は、食餌制限状態での体内時計の変化を研究、肥満と体内時計の関係にも注目している。自作した食餌の解析システム(写真4)を見せてくれ、滔々と開発に関わる苦労話を話してくれた。意外に思うが、アメリカの研究室では自分の研究にあった装置を自作しているケースが多い。また、ソフトだって、自分で作ったと説明していたところ、いきなりフリーズしたのにびっくり。復旧には一時間以上かかったが、自分で直せるのだから、Mattの器用さにさらに感心してしまった。しかし世界の多くの研究室を見て回ったが、自作機が多いのは、やはりアメリカかもしれない。

ところで、オレゴン発祥のものをご存じですか?有名なところではナイキ。元々はオレゴン大学の陸上のコーチが始めたもの。また、研究者に馴染み深いモレキュラー・プローブ社も本拠地はオレゴン。また、オレゴンではないが、お隣のワシントン州シアトルはスターバックスの発祥の地。カリフォルニアのシリコンバレーやボストン周辺がイノベーションの地として持て囃されるが、地方を侮れないのがアメリカのすごさかな。

さて、アメリカの強さの正体は?それは、必要なものなら自分で作ってしまう自前精神?不便ならロープウェイまで作ってしまう大胆さ?それとも、地方だって都会に負けないオリジナル?答えはいくつもあるような気がする。さてさて、正月明けに米子を訪問、鳥取大のオッシーこと押村先生と新年会をした。その場の話題の一つがアメリカの強さ。先生曰く、「アメリカは研究の分業化が確立しているのが強み、日本は雑用が多すぎ」。確かに日本では研究者は考える時間、機器を試作する時間がないなぁ。何かを求める時間が徹底して不足している。
  • 写真1: 大学院生のMattも大学の先生に
    写真1: 大学院生のMattも大学の先生に
  • 写真2: OHSUのMattのラボにて
    写真2: OHSUのMattのラボにて
  • 写真3: OHSUに行くためにできた
ロープウェイ
晴れた日の景色は抜群
    写真3: OHSUに行くためにできた
    ロープウェイ
    晴れた日の景色は抜群
  • 写真4: Matt自作のマウス食餌システム
工夫満載
    写真4: Matt自作のマウス食餌システム
    工夫満載
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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