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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2016年05月26日

近江谷 克裕
第27回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- スリランカにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
中古車を見れば、その国がわかるような気がする。ニュージーランドでは年代物の日本車が走り回っているが、錆びだらけのポンコツも多い。車はスニーカーと一緒と考える国の方々だからしょうがない。ロシアでは、ウラル山脈を境に東は日本車の、西はドイツの中古車ばかり。彼らは日本製中古車を右ハンドルの車と言い、優秀と褒めてはくれるが、大事にしているとは到底思えない。ロシア人って、その大雑把さが魅力だな、とも思う。その点、スリランカでは日本の中古車は大事にされていた。車も道路もちょっと凸凹な隣国インドとは随分違っている。穏やかな国民性が伝わってきた。

4月にデリーからスリランカに入国した。海風のせいか、デリーほどの不快な気温ではなかった。最近、完成した中国製の高速道路は、まだ快適であった。余談だが、経験的には、あと1、2年で凸凹になると予想してしまった。実際、過酷な環境のせい?か、中国の高速道路の劣化は早い。スリランカは街全体が落ち着ており(写真1)、驚くほど、走っている車のクラクションが少ない。車は新車も多いが、日本車の中古車を多く見かけた。特に日本で使っていたままのロゴが入ったバスやトラック(写真2)を多く見かけた。が、ほとんどがきれいであった。これらの車を見かけた10年、20年前の日本を思い出してしまった。

今回の旅は、我々とスリランカのスリジャワルダナプラ大学との共同研究の協定を結ぶための訪問(写真3)。これは、インド政府との共同研究の流れであり、インド政府も本共同研究を支援している。式典には多くの教官が参加してくれたが、日本に留学経験のある方も多い。「日本では、日本人研究者と共に24時間働いた」と若い学生たちに自慢げに説教した時には、それは昔の事?何処も昔はすごかったは共通語のように感じた。

訪問して気付いたが、ゾウもいれば、ヒョウもいるスリランカの自然の多様性は想像以上であった。これは北海道の0.8倍程度の島でありながら、二千メートル級の山々が連なり、平地の年間平均気温が27度なのに、山岳地帯では17度。気温も湿度も変化に富み、いや応なしに生物は多様に進化したのだろう。例えば、有名なセイロン茶は採取される場所、高度によって茶の成分も変化、味も、その効能も変化するそうだ。なお、共同研究では、昔から老化予防などの効果が知られているスリランカの異なる地域で栽培されたシナモンから、アルツハイマーなどの精神疾患に有効な成分を見つけることなどを計画している。

スリランカは古くて新しい国。目を輝かせた多くの若手研究者をみた。基礎科学にも興味があるというが、実用的な学問を重視していた。試しに、この島に何種類のホタルがいますかと質問したが、「答えることができる研究者は一人もいないだろう。先生が来て調べるならお手伝いします」と言われた。日本の科学は、博物学を含めた基礎があったからこそ発展した事は、なかなか理解されないようだ。

そんなことを考えながら、退職後はスリランカでホタル探しでもしようかと思ってしまった。日本の中古車を大事にする国だから。少々ポンコツの私でも、ここなら日本にいるより大事にされるのかもしれない。そういえば、カレーはインドのものより日本人にあっているようだ。特にツナカレーは絶品だった(写真4)。
  • 写真1: コロンボ市内でも
クラクションもなく、ゴミもなく、
穏やかな日常
    写真1: コロンボ市内でも
    クラクションもなく、ゴミもなく、
    穏やかな日常
  • 写真2: 今はLucky Tunaとなった
中古の軽トラック
    写真2: 今はLucky Tunaとなった
    中古の軽トラック
  • 写真3: 共同研究ラボの開所セレモニー
    写真3: 共同研究ラボの開所セレモニー
  • 写真4: スリランカのツナカレーは絶品
    写真4: スリランカのツナカレーは絶品
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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