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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2016年07月22日

近江谷 克裕
第29回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- ジャカルタにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
7月のジャカルタの夜は意外と涼しい。ジャカルタ市内には小綺麗なホテルも多く、屋上で夜風を感じながら飲むビールも良いものである(写真1)。しかし、蚊が多く、短パン姿の私は容赦ない攻撃を受けた。そんな中、今回お会いした研究者の一人が、最近、デング熱に感染し、高熱に悩まされたという話を思い出した。デング熱は蚊が媒介するから、こんなに蚊に刺されてしまうと、能天気な私も少し気になってしまった。感染後、3〜4日後に発症することが多いらしい。本日で5日目、今回は感染が無かったようである。

私たちが訪問したのはインドネシアBPPTという産総研と同じような国の研究機関である。共同研究の打ち合わせの訪問であった。実は、インドネシアは昨年、大統領が変わり、その結果なのか十分にはわからないが、国の研究機関は大きな影響を受けた。これまで、対応してくれていた幹部研究員が降格されたり、地方の研究支所にいた研究者が要職についたりなど、多くの変化があった。この国では、よくあることだと言うが、政治が直接、研究者の世界にも影響を及ぼすのを目の当たりにしてしまった。

会議を通じて、先方より新規に提案された共同研究テーマは、この国の今と未来を明確に映しだしていた。一つは、デング熱の早期発見や治療に関する研究である。話題のデング熱は主にネッタイシマカが媒介するウイルス感染症である。重篤化すれば、命も奪う代表的な熱帯病である。最近、東京でも感染者が出たのだから油断のならない感染症でもある。イムノアッセイによる早期検出法やワクチン開発などで共同研究できないかとの相談であった。

また、糖尿病対策に関しても相談も受けた。インドネシアは食生活の変化と共に急激に糖尿病患者が増加している。2015年でも患者数は一千万人を超えているが、今後はさらに増加することが予想されている。よって、糖尿病対策は近々の課題である。でも、とにかく甘いものが好きな方々である。お酒を飲む方は少ないが、甘いお茶、コーヒー、そしてお茶菓子は会議の必須のアイテム(写真2)。共同研究ではインドネシアの多様な天然物資源から糖尿病に効果のある天然化合物を探すことを相談された。

しかしながら、研究も大事だが、まずはインフラ整備を通じた環境づくり(写真3)、食生活改善のための啓蒙活動をもっと進める必要があろう。二つ目の研究テーマはインドネシアの今の環境問題やこれから生活習慣に関わるものであったが、アジア全般に見られる根源的な課題で、インドやスリランカでも、ほぼ同じ話を相談された。それだけ切実ではあろうが、これが共同研究の主なテーマではちょっと寂しい気もした。
  • 写真1: ホテルの屋上にある
バーのテラス席からの一コマ
    写真1: ホテルの屋上にある
    バーのテラス席からの一コマ
  • 写真2: BPPTでの会議の風景
会議には飲み物とお菓子の皿は付き物
    写真2: BPPTでの会議の風景
    会議には飲み物とお菓子の皿は付き物
  • 写真3: 街は郊外へと広がりつつあり
森はビルへと変貌し続けている
    写真3: 街は郊外へと広がりつつあり
    森はビルへと変貌し続けている
  • 写真4 : 友人たちとの食事の一場面
窓は開け放たれ
蚊が自由に行きかうレストラン
    写真4 : 友人たちとの食事の一場面
    窓は開け放たれ
    蚊が自由に行きかうレストラン
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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