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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2016年09月21日

近江谷 克裕
第31回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- タイ・バンコックにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
三枚の写真、何が共通点かわかりますか?美女に囲まれ嬉しそうな顔の私。いや違います。答えは、研究トップがみな女性研究者であること。タイの三つの研究機関を訪問したが、タイの生命科学研究の中心は女性研究者。管理職、現場トップ共に極めて女性が多い。研究室内は良く整理され、隅々まで洗練?されているのは、女性が運営しているせいかもしれない。

8月のバンコックはまだまだ暑いが、雨期となり、夜には激しい雷雨となるので、翌朝の街はとてもきれいであった。今回、タイで初めて開催された第1回実験動物代替法のシンポジウムに招聘された。タイでは、これまでに化粧品等の化成品やナノ材料の安全性試験は動物実験で行なわれてきたが、OECDでの規制を背景に、実験動物代替法への関心が高まってきた。主催は国の研究機関であるTISTR(タイ科学技術研究所)とNSTDA(タイ国科学技術開発庁)のNANOTECであった。

会議の前々日に友人であるマヒドール大学のPimchai先生のラボを訪問した(写真1)。本大学はタイ屈指の理系大学。先生はタイの酵素研究のトップランナーの一人であり、年に数回は来日する知日派でもある。先生の研究テーマの一つとして、発光バクテリアの発光システムの基礎・応用研究がある。数年前に初めてお会いした時、先生自身がタイで見つけた発光バクテリアから単離したルシフェラーゼ遺伝子をベースに研究していると聞いて、研究をフィールドから始める姿が私と共通していることから、一挙に共同研究の話に進んだ。

次に訪問したのはバンコック郊外にあるTISTRである(写真2)。この研究所は応用研究に特化していることから、私の所属する産総研とも古くから付き合いがある。人材交流を含めて、共同研究できないかとの相談を受けての訪問。ここでも多くの女性研究員に囲まれたが、多くの研究者が、日本で研究経験を積みたいと希望している。この冬から、一名の女性研究者が私の研究所に数カ月滞在することが決まっているが、新婚とのこと。新婚でも大丈夫ですかと聞いたが、即座に問題ないとの発言。日本の女性研究者なら何と答えるかな?

最後の訪問先はNSTDAのバイオ部門であるBIOTEC(写真3)。ここは基礎研究を中心とし、応用研究も進めている。タイのマラリア研究の中心の一つでもあるが、私の友人であるPimchai先生との共同研究を進めている研究者がおり、お互いに“It’s a small world”と顔を見合わせ笑ってしまった。研究者の世界では良くあることだが、本当に狭い。しっかりした基礎研究ができる研究機関であり、多くの研究者が欧米からのリターン組である。

さて東南アジアをいろいろ見たが、タイの若い研究者のひた向きさにはちょっと感動?した。Pimchai先生のラボでは多くの大学院生、ポスドク、企業研究者が研究に従事、先生のスパルタ指導のもと、日夜研究に励んでいる。先生は、「近江谷先生に言われた実験は一カ月後までに結果を出すこと」なんて平気に言ってしまう。学生たちも、困惑しながらも頑張りますと言う。ふと、実験室の中のベンチに貼ってある研究の注意書きと仏様シールが目に留まった(写真4)。注意書きはトップが女性ならでは細やかさかな。一方、学生たちは仏様シールで対抗しているようだ。彼女たちによると、祈りながら実験すれば、何とか期限内に研究結果が出せるとか。さすが仏教の国、女性の国だ。
  • 写真1: マヒドール大学の
Pimchai先生のラボにて
(私の左隣がPimchai先生)
    写真1: マヒドール大学の
    Pimchai先生のラボにて
    (私の左隣がPimchai先生)
  • 写真2: TISTRの研究室内での記念撮影
(ラボ長は私の左隣)
    写真2: TISTRの研究室内での記念撮影
    (ラボ長は私の左隣)
  • 写真3: NSTDAのBIOTECでの記念撮影
(研究部門長が私の左隣)
    写真3: NSTDAのBIOTECでの記念撮影
    (研究部門長が私の左隣)
  • 写真4: Pimchai先生のラボの
クリーベンチの注意書きと仏様シール
    写真4: Pimchai先生のラボの
    クリーベンチの注意書きと仏様シール
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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