カルナバイオサイエンス株式会社

製品検索
  • Home
  • ルシフェラーゼ連載エッセイ

ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2016年11月23日

近江谷 克裕
第33回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- ふたたびシッキムにて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
人はどうして、この場所に住み始めたのだろう?二度目のシッキムであらためて感じることは、空港から遠すぎること、そして平地が少なすぎること。時折、車一台の幅しかない道路を5時間かけて移動する街。街と言っても山の斜面に立ち並ぶ家々(写真1)。家々に挟まれた限られた広場のあふれるばかりの人々。でも人々ののんびりした笑顔はインドの他の街では見られない豊かさを物語っている。大変な場所だけど、笑顔があふれているのだから、好き好んで、この街に住み始めたのだろう。しかし、海抜1,500メートルの坂道で、私たちはへとへとになって、笑顔など全く失くしてしまった。

シッキムはブータン、ネパール、そして中国と国境を接する州であり、インドの他の州とは異なり、州内に入るためには入国審査とパスポートの捺印が必要である(写真2)。二年前は、これほど厳しくなく審査時間も短かったが、今回は厳しくなっており、国家間の緊張を否が応でも感じてしまった。それにしても入国審査は夕方6時までで、6時以降は州に入ることはできない。よって、ドライバー氏の運転は半端なく、すごい。久しぶりに気持ちの良い?緊張を味わうことができた。でも、我々の後続車は6時に間に合わなかった。が、そこはインド、不思議と入州はできた。

前回は雨季で、青空をみる機会も少なかったので気づかなかったが、ホテルの窓から世界第三の高さを誇るカンチェンジュンガ山(8,597メートル)を中心としたヒマラヤ山脈をみることができた。これら美しい山々の、特に朝日に刻々と色を変える姿に、しばし言葉を失ってしまった(写真3)。この地に人間が住み始めた理由がわかったような気がした。この神々しい山に惹かれ、この斜面に住み始めたのかもしれない。近くのチベット寺院からも、その姿をはっきりみえる(写真4)。チベット仏教にとって、神々しい山は根源的な精神の支柱なのかもしれない。そういえば、中国雲南省のチベット族の人々は春になれば山々の麓に集い、踊りを捧げるという。我々人間は崇高なものを見ると、そこに寄り添いたくなるものかもしれない。

総じてチベット高原やその周辺に住む人々は踊りが上手い。ところで、今回はシッキム大学との共同研究契約を締結するための訪問であった。夜は先方主催の懇親会があったが、我々日本人はお酒中心になるが、現地の人々は踊りが中心となる。我々も踊りに参加したが、お酒の量も減り、心地良い疲れと共に心地良い睡眠がとれた。サケコミュニケーションも良いが、ダンスコミュニケーションもイイものである。

以前、中国雲南チベットのシャングリラで採取したホタルの話をしたが、このルシフェラーゼをクローニングし、その特性を明らかにした。シャングリラホタルは10℃前後で採取されたが、得られたルシフェラーゼ酵素の最適温度も同じく10℃前後であり、20℃を越えると急激に活性が無くなる。まさに低温に住むホタルらしい低温に最適化された酵素である。ホタルにとって過酷な場所に、なぜ、このホタルは住み始めたのだろう。でも、大事な事は好き好んで住み始めたかどうかではなく、如何にそこに適応したかのような気がする。人もまた好き好んで住み始めたかは問題ではなく、その土地に如何に順応して、そこに住み続けるかが大事なのかもしれない。シッキムの人々の笑顔はそれを物語っていた。
  • 写真1:夕暮れ迫るシッキムの街
    写真1:夕暮れ迫るシッキムの街
  • 写真2:右下はEAST SIKKIM州に
入るための査証スタンプ
    写真2:右下はEAST SIKKIM州に
    入るための査証スタンプ
  • 写真3:朝日に輝くヒマラヤ山脈
    写真3:朝日に輝くヒマラヤ山脈
  • 写真4:チベット寺院から見える
ヒマラヤ山脈
    写真4:チベット寺院から見える
    ヒマラヤ山脈
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
LinkedIn