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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2017年05月26日

近江谷 克裕
第39回 Elucをめぐる旅の物語
-インド・グワリオールにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
これぞインドの流儀。最初に手渡されたプログラムはいつの間にか変更され、プログラムに名前のない人が発表している。案の定、初めのセッションが終わった段階で、タイムスケジュールは30分近くオーバーしている。昼ご飯の時間で調整するかと思ったら、これもしない。インド人研究者はタイムスケジュールを無視し、日本人研究者は遠慮がちにタイムスケジュールを守ろうとする。わざわざ遠くから来て発表している方が遠慮するのだから、日本人研究者の流儀も面白い。私が座長を務める最後のセッションは1時間半も遅れてスタートしているのに、演者は持ち時間が過ぎても話を止めない。座長である私が話を止めることができないのも、日本人の流儀だろうか?

5月の始め、インド・グワリオールJiwaji大学のミニシンポジウムに参加した。グワリオールはデリーの南、およそ300kmに位置するインドの代表的な古都の一つである。私たちが見たグワリオール城塞(写真1)は15世紀前後にできたものだが、グワリオールという街の名前は5−6世紀にさかのぼることができる。街にはマハーラージャの大邸宅もあるが、驚いたことに大邸宅内の宴会場にはミニSLが走る線路があった(写真2)。これで食べ物やお酒を運んでいたようである。もしかして、回転ずしの原型はインドなのかもしれない。

しかし、5月のインドは暑い、特に内陸は40度を越える暑さが続く。当初、街角の男性も女性も顔を布で包み込んでいるのを不思議に思っていたが、これは熱風から身を守るためらしい(写真3)。これまでのインド旅行では、あまり体調を壊すことがなかったが、今回ばかりはダメだった。連日の45度の気温に、とうとう体調がおかしくなった。参加した日本人全員、胃がキリキリするというのだ。高温の大気がこれほどまでに胃の活動に影響するとは意外であったが、比較的涼しい南インド出身の先生も、暑さは胃に堪えると力説していた。

Jiwaji大学は1964年に設立された公立の総合大学であり、多くの学部がある。面白いことに、特別学科として神経科学科があり、我々は、この学科で開催されたミニシンポジウムに参加した。東南アジアではバイオテクノロジーと言えば、実学に近い生物工学のようなバイオモノ作りがメインの学科が多いが、インドではバイオテクノロジー関連の学部の多くに神経科学系の学科が存在する。インドには紀元前800年頃の古代ヒンドゥー教の医学の祖であるダンバンタリのサンクスクリット語で記述された医学書があるが、伝統的に、この手の学問が好きなのかもしれない。

インドの大学でしばしば見られる光景だが、シンポジウムを始める前に「学問、知恵、音楽」の女神サラスヴァティに花を捧げる(写真4)。そして、知の象徴のろうそくに火を灯すのである。インド人にとっては学問もまた、神さまが支配している世界なのかもしれない。しかし待てよ、四季のはっきりした日本には「暦を司る“聖神”」や「穀物の一年を司る“大年神”」がいて、そのせいもあり、時間に厳格なような気がするが、インドではどうなのだろう?インドの友人に尋ねたところ、確かに“時”に関わる神さまカーリーはいるが、彼女は「時と死」の象徴で時間を守るという神さまではないらしい。四季がはっきりしない国だからしょうがないと思いつつ、インドの流儀を理解するのは今さらながら難しいと感じた。

  • 写真1 丘にそびえたつグワリオール城塞
    写真1 丘にそびえたつグワリオール城塞
  • 写真2 宴会場の食卓の間のテーブルにはミニSLが走る線路がある
    写真2 宴会場の食卓の間のテーブルにはミニSLが走る線路がある
  • 写真3 街角で見かける人々は布で顔を隠している
    写真3 街角で見かける人々は布で顔を隠している
  • 写真4 「学問、知恵、音楽」の女神サラスヴァティの像が講義室の中にある
    写真4 「学問、知恵、音楽」の女神サラスヴァティの像が講義室の中にある
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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