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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2017年11月22日

近江谷 克裕
第45回 Elucをめぐる旅の物語
-インドネシア・アンボン島にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
ジャカルタを東に向け飛び立った飛行機は3時間半ちょっとでアンボン島に着いた。日本との時差が2時間あったはずなのに、ここに来たら時差がなくなった。つまり、アンボン島は日本の真南に位置することになる。太平洋戦争のとき、日本軍に占領された島の一つであり、火山で出来上がった島は染色体のような形(写真1)。V字型の港は水深が深く、連合艦隊の停泊地としては優れた良港であったようだ(写真2)。この島では石油やガスも産出、今でも港内には多くのタンカーなどの船舶が停泊していた。

アンボン島は人口が100万人を超えるマルク州最大の町で、およそ30万人の住民が暮らす。ここに来たのは、パティムラ大学と私の研究部門とのLOI(Letter of Intend)の締結のためである(写真3)。パティムラ大学は学生数2万人を誇るインドネシア東部の名門大学。石油のお陰で経済的には潤っており、また地方政府も大きな支援を行っており、教官も学生も待遇は悪くないようである。町は15人に一人が学生のためか活気があり、日本の同規模の地方都市より、はるかに元気がいい印象であった。

兎にも角にも、学生たちは底抜けに明るい。元気は元気でよいのだが、共同研究契約の式典の後に開催された講演会での学生たちの私語にはびっくりした。タイやインドなどでも学生向けの講演会を行ってきたが、これほどのことはなかった。これもお国柄なのかもしれない。終了後、屈託のない笑顔で多くの学生から記念写真をお願いされたのも初めての経験だった。赤道直下の南国らしさといえば、それまでだが、今までにない経験であった。失礼な連中と思いつつも、憎めない学生たちだった(写真4)。

ただ、今回、よくわからなかったのは、なぜ、パティムラ大学物理学科と私の研究部門がLOIを結んだかである。世話人のHendry Elim先生はナノテクノロジーの専門家であり、他の講演者も材料系の方々であった。隣のビルでも同時に国際学会が開催されており、そこはメディカル系だと、さらに混乱する説明を聞いてしまった。LOI自体、一緒に研究をしたいが、具体的な内容が決まっていない時の協定ではあるので驚きはないが、不思議な協定である。一つ分かったことは、彼らには無数の島々の固有の生物資源を生かしたいという期待感があること。まさに究極の他力本願のようだ。これも南国らしさなのか?

さて、アンボン島の歴史はひも解くと、そこは争いの歴史である。16世紀初頭、オランダはポルトガルから島を奪い、次に香辛料をめぐり、オランダは英国と戦いを繰り返した。19世紀初頭にはオランダが植民地とするものの、太平洋戦争では日本が占領した。戦後、独立したが、次はキリスト教徒とイスラム教徒の間に宗教的な対立が続いた。1999年にマルク宗教抗争があり、さらには数年前にも暴動があった。Hendry先生によると、大学は当初、キリスト教徒が多かったが、最近はムスリンの学生も多くなったとの事であった。町全体が落ち着いてきたのは教育のお陰のようである。

ところで、この島に来た最初の日本人は戦国時代のサムライのようである。ポルトガルの傭兵としてオランダ人と戦ったらしい。そう思うと、私も科学という武器で戦う傭兵なのかもしれない。アジア圏を科学する傭兵も悪くないと思うこの頃である。
  • 写真1 アンボン島の全景図(2つの火山の島が繋がっている)
    写真1 アンボン島の全景図(2つの火山の島が繋がっている)
  • 写真2 アンボン島の入り江、ここに連合艦隊駆逐艦「雪風」もいた
    写真2 アンボン島の入り江、ここに連合艦隊駆逐艦「雪風」もいた
  • 写真3 学生数2万人のアンボン大学、全景立体モデル
    写真3 学生数2万人のアンボン大学、全景立体モデル
  • 写真4 笑顔、笑顔の学生たち。
    写真4 笑顔、笑顔の学生たち。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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