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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2017年12月20日

近江谷 克裕
第46回 Elucをめぐる旅の物語
-スウェーデン・カロリンスカにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
ストックホルム市内中心部はクリスマスムード一色(写真1,2)だが、カロリンスカ研究所の周辺に、そのムードはない。ノーベル賞ウィークが終わると、カロリンスカ周辺は一気にクリスマスムードになると、ここで研究生活を過ごしていた友人が教えてくれた。確かにノーベル賞医学生理学賞の受賞記念講演には研究者に交じって多くの市民も参加していた(写真3)。
 
12月のはじめ、カロリンスカで開催されたイメージングワークショップに講師の一人として参加した。各種蛍光顕微鏡をメインとしたワークショップだが、生物発光を利用した技術を紹介して欲しいということで、参加することになった。4日間の滞在であったが、運が良いことに、ノーベル賞記念講演を聞くことができた。今年の受賞者はジェフリー・ホール名誉教授とマイケル・ロスバシュ教授、マイケル・ヤング教授であったが、講演は3人3様で見ている分には面白かった。ホール教授の舞台を歩き回りながら講演する姿。自分の講演が終わった後、自席で退屈そうにする姿は印象的だった。さすが、生物学者を連呼するだけのことはある。
 
正直なところ、体内時計の受賞者の選考は難しかったように思える。世界中の多くの研究者が参加、特に多くの日本人研究者も当初から研究に参加、多くの画期的な成果もあげているからである。さらに選考が難しいと感じるのは、ヒト体内時計の研究に関する研究に光が当てられていない点である。本当にこの3人だけかというと、片手落ちの気もするが、少しでも他の研究者を選べば、次なる不満も出るはずで、しょうがない選択なのかしれないとも思う。
 
私の大好きな友人の一人であった、ハーバード大学の故ヘイスティング教授は1960年代から発光性渦鞭毛藻類の体内時計の研究を続けていた。今回のノーベル賞受賞の背景の説明にシアノバクテリアの体内時計の研究が取り上げられていたが、多くの生物の体内時計の研究が進められていた。その中でも、ショウジョウバエの研究で、遺伝子と行動という直接的な関係性の発見が画期的だったのだろう。いずれにしても、このノーベル賞の背後には多くの研究者がいたことは忘れてはならない。
 
カロリンスカのイメージングワークショップはさすがに面白かった。多くの研究者たちは自作の顕微鏡を誇りに、若い研究者の卵たちに、そのノウハウを語り、そして実演するのである(写真4)。それなりに研究費が潤沢なのかもしれないが、システムとして、オリジナルな研究を生む出す土壌があることを感じた。日本なら新しい顕微鏡が買えないなら、研究は進まないと言いそうなところ、ここはファルマシアやLKBを生み出した国。底力が違うのか?
 
さて、ノーベル賞は「0(ゼロ)から1を生み出した人間」に与えられるものと思うが、どうすればゼロから1を生み出すことが出来るのだろう。昨今、「選択と集中」という言葉がもて囃されているが、審査員は「ゼロから1を生み出す」研究を選択するであろうか?思うに、誰でも無難なものを選ぶだろうし、ましてや予算が絡むものなら、ゼロなど選択できないだろう、よって、現在、日本で行われている“研究者を「選択」し予算を「集中」する制度”は、ノーベル賞から遠ざかる方向にあるように思えてならない。それはカロリンスカ研究所の自前で装置を作り、「見たいものを見たい」という研究者の「選択と集中」とは対極にあるように思える。これは、私だけだろうか?
  • 写真1 ストックホルム旧市街の露店
    写真1 ストックホルム旧市街の露店
  • 写真2 ストックホルム旧市街の花屋さん
    写真2 ストックホルム旧市街の花屋さん
  • 写真3 カロリンスカ研究所の講演会場。屋内は木材がふんだんに使われている
    写真3 カロリンスカ研究所の講演会場。屋内は木材がふんだんに使われている
  • 写真4 カロリンスカ研究所内の自作の2光子顕微鏡でのワークショップの一場面
    写真4 カロリンスカ研究所内の自作の2光子顕微鏡でのワークショップの一場面
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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