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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2018年03月20日

近江谷 克裕
第49回 Elucをめぐる旅の物語
-インド・マドラス(チェンナイ)にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 3月となり評価、評価の毎日だ。評価する方でもあり、評価される方でもある。1年間の研究者の活動を評価するのだが、金子みすゞの詩のように、「みんなちがって、みんないい」とは言えないのが昨今だ。白黒つけて、正規分布の評価表を作れと言われてしまう。うっとうしい仕事に悩んでいるとき、先月訪れたインドの街並みを思い出してしまった。南インド最大の街、チェンナイである。

チェンナイの海辺に立つ灯台から見下ろした街は、パステルカラーが不思議と似合っていた(写真1)。建物の壁の色が淡い紫色、青色、緑色、黄色なのである。街角ではペンキで店先を塗り替える人もおり、インドではあまりにも不似合いな作業(写真2)に、思わず笑みがこぼれてしまった。そういえば、これらの色遣いは、少し日本に共通するような気がした。淡い紫色は浅紫、淡い青色は白藍、そして翡翠色、薄紅梅と日本の和色に通ずるものがあるような気がした。だから、落ち着くのかな?

食べ物も、これは当然カレーだが、インド西部や北部に比べると辛すぎることもない。水田も多く、コメが豊富なので、ナンよりもコメ中心であり、これも日本人にとってはありがたい。但し、私は平均的な日本人ではなく、辛いものにめっぽう強いので、この評価はあてにならない。新鮮なくだものも豊富であり、5日間ほど滞在だったが、心地よい滞在となった。
 
チェンナイ周辺には古代からのヒンズー寺院も多い。特に有名なパッラヴァ朝期のアパーリーシュヴァラル寺院には、屋根に神様と人間の姿がデコレーションされており、ヒンズー教、そして南インドの世界感を物語っているようであった(写真3)。日本の八百万の神に通ずるのかな?また、郊外の寺院の遺跡群(写真4)は、古代インドの豊かな暮らしぶりを反映しているようで、これも興味深いものがあった。共通しているのは、デリーやムンバイなどの街とは異なる色遣いと、暮らす人々の穏やかさであった。クラクションの数もデリーやムンバイとは大違い、意外なほど静かな街なのである。
 
私の好きな池波正太郎の作品に「黒白(こくびゃく)」がある。人間は良いことをしながら悪いことをするし、逆に悪いことをしながらでも良いこともできる。決して黒でもなければ、白でもないという、池波作品に共通する人生観が、この作品ではよく表されている。黒白の人生観からみると評価など、どこまで意味があるのだろうか?1年を切り取りして白あるいは黒をつける。A、B、C、Dという原色の色分けで語られる1年間ということに意味があるのか?
 
でも、評価とは、そういう意味のものかもしれない。褒めたい人をほめるには白星をあげるしかない。また、うまくいかなかった人には黒星をあげることも重要なことだろう。そして、その間にいる方には、その方に見合う原色で色を付けるしかないのだろう。評価にはパステルカラーは似合わないようだ。だが、原色の街に暮らすと穏やかに生きれないのは現実だろう。せめて、自分の周りだけは和色かパステルカラーの世界にしたいものだ。ちなみに私が好きな色は利休鼠、緑色がっかた灰色である。私はそんな色合いの人間にあこがれているのかもしれない。 
  • 写真1 チェンナイ市内の風景
    写真1 チェンナイ市内の風景
  • 写真2 チェンナイ市内にて、ペンキを塗るおじさん
    写真2 チェンナイ市内にて、ペンキを塗るおじさん
  • 写真3 アパーリーシュヴァラル寺院の屋根のデコレーション
    写真3 アパーリーシュヴァラル寺院の屋根のデコレーション
  • 写真4 古代南インドの寺院跡
    写真4 古代南インドの寺院跡
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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