カルナバイオサイエンス株式会社

製品検索
  • Home
  • ルシフェラーゼ連載エッセイ

ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2018年07月23日

近江谷 克裕
第53回 Elucをめぐる旅の物語
-みたび、アブダビにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 アラビア湾(公式にはペルシャ湾)に沈む夕日は美しく、悠久の時の流れを感じさせる(写真1)。アブダビは3世紀には遊牧民や漁民が住み始めたようであるが、20世紀に入ってもさびれた場所で、1958年に石油が発見されてもなお、十分な都市機能は持たなかった。大都市に発展したのは、21世紀に入ってからである。今や急激に都市化を遂げ、街は高層ビル群の波。私が訪問したニューヨーク大アブダビ校も巨大な都市要塞の体である(写真2)。

 夕日を見ていたホテルのレストラン内は快適、いや寒いくらいの室温であったが、夕闇の波打ち際に行こうと野外に出たら、40度を超える暑さにカメラは機能不全となった。カメラの内部から霜がついたのか、しばらくの間、撮影した写真は霧のかかった世界であった(写真3)。アブダビはアラビア湾に浮かぶ砂漠の島。高温と湿気に、この国の過酷な自然をみた。夕食はテラスで取ったが、まさに我慢大会であった。でも、食事の質は最高。この国では、お金さえ払えば、世界の最高級な食材が手に入る。前菜は簡単な寿司だったが、ガリでさえまったく日本と変わらない。

 ここに来たのはニューヨーク大のPanceに会うため。先日、フランス・ナントでは詳細に話し合うことができなかった共同研究について、研究所の若手研究者と共に打ち合わせを行った。初めてアブダビを体験した若手研究者は予想通り驚いてくれた。大学の図書館には“蜘蛛の巣”という「知と知のネットワーク」を象徴するオブジェ(写真4)が飾られ、中央には数十台のマッキントッシュが学生のために、また、学生達はニューヨーク大の本校の図書を含めて閲覧できる。日本の大学院で学位を取ったばかりの彼には驚きの連続であったろう。

 さて、Panceとの夕食の話題の一つは、研究者のカテゴライズだった。私は研究者を大きく3つのタイプに分類している。農耕民族型研究者、狩猟民族型研究者、そして遊牧民族型研究者である。農耕民族型は研究室内に根を生やし秩序だって行動する研究者であり、堅実な成果を発信する。多くの日本人研究者はここに分類される。但し、この型の研究者は環境の変化に弱い。研究予算の減少や研究と教育との両立問題など、天変地異や時代の変化に影響を受けやすい。
それに対して、狩猟民族(ハンター)型は戦い続けるのが常である。トップに立ちたがるし、研究もオリジナルなものを志向する。時に待つこともできれば、一気に攻め立てることもできる。よって、一緒に研究すると、周りが疲弊することもある。が、話している分には楽しい。いつまでも森や海に獲物がいるわけではないので、常に、次の獲物がいる猟場を探しているのが特徴だ。こんな研究もしていたのかと驚かされることも良くある。一方、ごく稀にいるのが遊牧民族(ノマド)型研究者である。研究対象は決まっているが、どこででも研究ができるタイプであり、組織が苦手で、面倒くさいが口癖かもしれない。面倒くさくない程度に友達を作るが、自由が本質だ。周りは活動的とみるか、或いは落ち着かないとみるか評価が分かれる。

さて、結論はPanceがハンター型で、私がノマド型でということになった。大変な組み合わせの共同研究かもしれない。でも、アラビアのロレンスではないが、何かは成し遂げるはずだ。当然、ロレンスはPance。 
  • 写真1 アラビア湾に沈む夕日
    写真1 アラビア湾に沈む夕日
  • 写真2 ニューヨーク大アブダビ校の正面
    写真2 ニューヨーク大アブダビ校の正面
  • 写真3 野外で曇ってしまったカメラで撮影した女性
    写真3 野外で曇ってしまったカメラで撮影した女性
  • 写真4 大学の図書館の様子。天井には“蜘蛛の巣”のオブジェ
    写真4 大学の図書館の様子。天井には“蜘蛛の巣”のオブジェ
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
LinkedIn