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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2018年09月25日

近江谷 克裕
第55回 Elucをめぐる旅の物語-インド・リシケシにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 ジョン・レノンはガンジス河を見ながら、何を考えていたのだろうか?(写真1)ヒマラヤの麓、ガンジスの源流域は源流マニアにはたまらない場所である。数限りない付近の山々から流れ出る水は、ここリシケシでガンジス河として大河の源流らしい姿となり、以前紹介したバラナーシに、そして、チベットから流れ出るブラマプトラ川と合流し、バングラディシュに注ぎ込む。インドを北から南東に流れる巨大な大河を頭の中で旅すると、なぜか高揚感がわいてくる。
 1960年代、ビートルズ一行はリシケシに滞在、今は廃墟となったヨーガアシュラムで瞑想に励んだようである(写真2,3)。ただ、同行した友人によると、ジョン以外の瞑想は長続きしなかったようで、ジョンだけが長期修業に励んだらしい。そして、ジョンはここで得たインスピレーションを歌にしていったようだ。アシュラムは現在、持ち主がいなくなり、街が管理しているとの事だが、50年程度しかたっていないはずなのに、数百年前の建物といっても通じる気がする。眼下に流れるガンジス河は確かに何かを語りかけてくれる。
 リシケシに行ったのは、「栄養補助食品と慢性疾患に関する国際会議」に出席するため。会場はデヘラードゥーン空港近くのSwami Rama Himalayan大学である。面白いことにデヘラードゥーン市内より、リシケシ市内の方が近い。ここは昔UP(ウッタル・プラデーシュ州)であったが、大きすぎることから分割されウッタラーカンド州に位置する。インドでUPと言えば、貧しく、少し危ない場所の代名詞である。ここが典型的なヒンズー教の世界であるから面白い(写真4)。市内のホテルはベジタリアン仕様で全く肉は食べれないし、酒は飲めない。但し、いずこでも抜け道はあるもので、市内に酒や肉を提供する看板の無い店は数件あった。
 この学会に参加するのは2度目だが、どうも議論に馴染めない。皆さんターメリック、アシャワガンダやシナモンが、ガンや老化予防に効果があるというが、インド4千年の歴史で選ばれたものだから当たり前の気がするのである。効果に満足するのでなく、もっと本質的な意味を探るべきと思うのだが、彼らの研究には限界がある。あまりにも出口だけの議論に思える。
 今、科学の世界にいると、皆さん出口を意識しすぎているような気がする。研究は製品を生み出すだけにあるとは思えないのに、科学でイノベーションをあまりに言いすぎると、本質を見失ってしまうだろう。また、実用化の過程を重視するだけでは、何かを見落としてしまうだろう。今の研究者は川でいうなら下流と中流しか見ていない気がする。もっと、科学の根源となる源流を大事しなくてはいけないだろう。
 ガンジス河の源流に立って、そこから元気をいただいた。何でも生み出せる気になるから不思議だ。きっとジョンも同じ気持ちになったのかもしれない。

追記:2018年9月、インドに10日間程滞在したが、夜な夜なクリケット・アジアカップを楽しんだ。日本で放送されたかわからないが、日本も東アジア予選に参加、残念ながら香港に敗れたようである。今回の注目はアフガニスタンである。バングラディシュ、スリランカと立て続けに破った。応援席の雰囲気は明るく、アフガニスタンの復興も進んでいると感じた。でも、こんな明るいニュースは日本に伝わらない。世界は動いているのに日本にいると世界が見えない。
  • 写真1 ヨーガアシュラムの眼下に見えるガンジス河
    写真1 ヨーガアシュラムの眼下に見えるガンジス河
  • 写真2 ヨーガアシュラムの瞑想の場
    写真2 ヨーガアシュラムの瞑想の場
  • 写真3 ヨーガアシュラムの建物の壁に描かれたビートルズ
    写真3 ヨーガアシュラムの建物の壁に描かれたビートルズ
  • 写真4 ガンジス河の河畔で繰り広げられるヒンズー教の儀式
    写真4 ガンジス河の河畔で繰り広げられるヒンズー教の儀式
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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