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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2018年10月22日

近江谷 克裕
第56回 Elucをめぐる旅の物語-台湾・台北にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 中国人はお世辞にも食事のマナーがイイとは言えない。ごはん茶碗は食卓に置いたまま、肩肘を食卓の上に置き、別の手に持つ箸で食べ物をつまみ、そして食べかすは床に捨てる。なんて光景は今でも北京や上海でも見られる。意識して見ていないが、台湾や香港にいると、そのような光景に出会うことはめったにない。似ているようで似ていない社会がそこにある。
 10月中旬の台北。今年は例年より台風が少なく、10月になっても暑い日が続いているのだとか。訪問した中央研究院の鄭先生は盛んに地球温暖化のせいにし、台湾の気候も異変だらけと話す。日本も同じですよ、台湾に台風が行かなかった分、日本にたくさん来ましたと言ったら、苦笑しておられた。食事のマナーの話になり、中国人と台湾人は違いますねと言ったところ、子供のころから親に食事のマナーについて、厳しく言われていたとか。戦前の日本の影響というのが、彼の分析であった。
 以下、自分の無知をさらすようだが、台湾の知らないことたくさんあった。例えば、中華民国には独自の年号があり、今年は民国107年(写真1)。つまり、西暦1912年が中華民国元年であり、私は民国107年10月に台北を訪問したことになる。中国北京の清華大学と台湾の国立清華大学の起源は同じ清華学堂であり、台湾では1955年に再興された。そして中央研究院Academia Sinicaは1928年に中国本土で設立され、蒋介石らが中国本土から台湾に逃れてきた時、一緒に台湾へ移転した。よって、中央研究院に対抗して、中華人民共和国が中国科学院は設立したとか。
 中央研究院は台北市内南港近くにあり、市内の中心地からも近い。敷地はそれほど広くないが、多くの研究棟が立てられ多くの研究者が従事する(写真2)。いわば台湾の基礎科学研究の中心地である。こんな市内に位置するのに立派な動物実験施設を有していることに驚かされた(写真3)。研究者たちのレベルは高く、欧米や日本に留学した方々がPIを担っている。研究テーマも日本の研究者とそん色がない。私のホストとなってくれた鄭先生はナノデバイスを開発している。研究室にはポスドク、技術員、学生と理想的なバランスであった(写真4)。
 台湾における科学研究の現状であるが、鄭先生に言わせると、大型研究予算がなく、特定の研究テーマに集中的な研究費の投下がないことが不満とか。しかしながら、少額ながら、比較的まんべんなく予算が獲得できるのが現状のようだ。ノーベル賞を受賞した本庶先生が盛んに、基礎研究に少額だが継続的な予算の配布が必要と言ったが、台湾は理想的に思えてしまった。お互いにないものねだりなのか?
 また、中央科学院は企業への技術移転を推奨し、ベンチャー企業の起業も可能とのこと。但し、研究所内でベンチャー企業を立ち上げ、運営することはできないとのこと。別のベンチャー支援地区に移動しなくてはいけなく、基礎研究と商品化研究に明確な区別を設けている。一方、最近の日本では大学や研究所内にベンチャー企業が設立され、運営もなされている。日本と台湾のサイエンス環境、似ているようで似ていない。その分、共同研究をするにはいい相手なのかもしれない。そういえば、日本人ポスドクが生き生きと研究をしていた。
  • 写真1 レシートに書かれた民国107年
    写真1 レシートに書かれた民国107年
  • 写真2 中央研究院の景色、逆側が台湾台北市の中心地
    写真2 中央研究院の景色、逆側が台湾台北市の中心地
  • 写真3 中央研究院の動物施設
    写真3 中央研究院の動物施設
  • 写真4 中央研究院鄭先生のラボメンバー(中央が私と鄭先生)
    写真4 中央研究院鄭先生のラボメンバー(中央が私と鄭先生)
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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