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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2019年08月26日

近江谷 克裕
第66回 Elucをめぐる旅の物語-何度目かのインド・デリーにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
マハトマ・ガンディー生誕150年であることにインド工科大学デリー校で気づいた(写真1、2)。彼の不買運動の象徴でもある「インドの糸車を廻すガンディー」をモチーフに、杖をつきながらも独立への歩みを止めなかった姿を上手く表現していると感心した。その看板は学生たちが頻繁に通る歩道の角に設置されていたが、今年のガンディー記念日(10月2日)はどんな盛り上がりになるのだろうか?

 今回のインド滞在は2泊4日の強行軍。会議の前夜12時にはデリーに到着予定であったが、何と飛行機は3時間近く遅れ、ホテルに着いたのは午前3時すぎ。会議はその日の10時からなので、8時にはホテルを出発することになり、ほとんど寝る間もなく、会議に参加した。そのせいか、帰国後、久しぶりに発熱、病院に駆け込むことになった。

 我々はインドバイオテクノロジー庁から資金提供を受けているが、1年目が終わり中間評価が行われることになった。インドらしく中間評価の日程が決まらず、やっと10日前に決まるという慌ただしいもので、アジェンダさえ事前に知らされていなかった。スポンサーに誠意を示す必要もあり、強行スケジュールだが、日本から4名で参加した。
中間評価は日本のやり方と似ており、評価者の前でプレゼン、質疑応答という流れであった。違った点は、何を評価したいのか事前に知らされなかったこと、そして評価委員がバイオテクノロジー庁から資金提供を受ける他の研究課題の推進者から選ばれていることである。よって、自分のプロジェクトの優位性を示すためなのか、バイオテクノロジー庁の担当者の前で辛辣な意見を言うのには驚かされた。よって、こちらも負けじと反論するという物々しい評価委員会となり、日本人の私には結構ハードな体験であった。それでも評価委員の中には“知り合いの知り合い”がいて、上手く収めてくれるのだから、またまたインドらしい。

今回の旅でうれしかったことが一つある。“知り合いの知り合い”の研究所に立ち寄った際、玄関先で若い女性研究者に声をかけられたことである(写真3,4)。日本から来た4名は、始め誰なのかは全くわからなかったが、彼女は7年前から開催しているワークショップの第1回目の参加者であり、現在、マラリア研究の拠点であるこの研究所に勤めているとの事。ワークショップの実習は役に立っていると言ってくれた時、正直ホッとした。考えてみれば、この7年間で200名以上のインド人研究者の卵と出会ったのである。彼らのうち何人かが卵からヒヨコになったのだと思うと、ちょっとうれしくなった。

さて、ガンディーの「偉大なる魂」は現在に継承されているのだろうか?彼が目指したものは宗教の違いを超えた「非暴力」の世界の構築である。当時からも現実離れしていると批判され、最終的に狂信者によって暗殺されたわけである。よって、現実的にインドを独立させ、自立の道を導き、現代インドの礎を築いたのは現実主義者のネルーと言われているのも確かだ。しかし、ここ最近、極端なくらいの自国第一主義が勃興し、非寛容の世界をまざまざと見せつけられてしまうと、150年前に生まれたガンディーの「非暴力」の世界というものに魅力を感じるのは私だけだろうか?ガンディーなら、今の世界を、インドを、どう思うだろうか?
  • 写真1 ガンディー生誕150年のメモリアル看板
    写真1 ガンディー生誕150年のメモリアル看板
  • 写真2 インド工科大学デリー校の風景。外とは違って本当にきれい
    写真2 インド工科大学デリー校の風景。外とは違って本当にきれい
  • 写真3 “知り合いの知り合い”の研究所。遺伝子工学・バイオテクノロジー国際センター(ICGEB)
    写真3 “知り合いの知り合い”の研究所。遺伝子工学・バイオテクノロジー国際センター(ICGEB)
  • 写真4 産総研のメンバーとワークショップ参加者(左から2人目)
    写真4 産総研のメンバーとワークショップ参加者(左から2人目)
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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