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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2019年11月20日

近江谷 克裕
第69回 Elucをめぐる旅の物語-今年5回目のタイ・バンコックにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
タイの街角で化粧品をよく見かける。そういえば、化粧品の個人消費量はASEANの中で第2位。面白いことに、一人当たりの購買力平価GDP世界4位のシンガポールは別にして、48位のマレーシアより70位のタイの方が化粧品に対する購買意欲が高い。また、化粧品産業も盛んで、私も関わっているCosmetopoeiaプロジェクトは、タイ化粧品産業の革新を目指している(写真1、2)。日本の企業も参加しているが、タイ国内での期待も高く、輸出国になることが大きな目標。そのためには有効性・毒性評価など多くの課題を抱えてる。
 私は今回、タイ科学技術研究所(TISTR)と日本分析機器工業会(JAIMA)の合同カンファレンスに参加、少しだけお手伝いをした。今回のメインテーマは、ずばり化粧品産業。世界第7位のS社の研究開発のノウハウ、或いは代替法のプロによる毒性評価などを日本側から話題提供された。一方、タイ側からはタイTISTRの研究開発の現状だけでなく、タイの化粧品工業会の活動が報告され、生産国でもあり、消費国でもある現状が説明された。
さらにはマレーシア、インドネシア、ベトナムの研究者からの現状報告もあった。各国のお国事情も見え、なかなか面白かった。イスラム教徒が多いマレーシアでは化粧品に動物由来のタンパク質を使う場合、当たり前かもしれないがブタ由来成分はご法度という事で厳しいレギレーションがある。また、インドネシアでも植物成分由来のものがメインだ。ベトナムは、まだ化粧品産業の出番はなく、健康美容食品の話をしていた。いずれにしてもASEANは化粧品の大きなマーケットであり、今後は生産国になりうる国々である。
創薬は病気を治すという命題に対して、低・中・高分子化合物に生物製剤も含めて、多くの手段を使うことができる。一方、化粧品業界の方によると、化粧品の原材料には多くの制約があるようだ。また、化粧品が追及する「美」というものは、民族や個人によって価値観が異なり、ホワイトニングや潤いなど、多様な優先順位があるようだ。さらには前述したように宗教的な背景によって、使用できる原材料も異なる。思っている以上に製品化は大変なようだ。
 ところで、私の好きな作家のひとり、高野秀行氏の「未来国家ブータン」では、化粧品原料になる生物資源の探索の旅が紹介されている。結局はブータンの生物資源管理センターに行けばわかることで、高野氏本人の考える調査目的は違っていたのだが、それはそれとして面白い本である(是非、ご一読を)。実際、フランスのシャネル社はブータンと共同で生物資源を利用した化粧品の開発を行っている。
 生物多様性という言葉が高野氏のような文系の方も語る時代。名古屋議定書なるものによって、生物資源は国家の管理する時代となった。よって、タイやインドなどの生物多様性を有する国々において、生物資源の調査研究が難しい時代となった。どのようにアクセスすれば良いのか?結局は現地の人々と一緒に汗を流すしかない。また、利益を還元し、その国の未来を一緒に作るしかないだろう。化粧品の開発には、多様な生物資源の活用が重要である。どうすれば、これらの国々と一緒にやれるのか?タイの街角で新たな夢を見ている自分がいた(写真3、4)。 
  • 写真1  Cosmetopoeiaプロジェクトの参加メンバーの寄せ書き(筆者のサインと共に)
    写真1  Cosmetopoeiaプロジェクトの参加メンバーの寄せ書き(筆者のサインと共に)
  • 写真2 Cosmetopoeiaプロジェクトで取り上げる代表的な生物資源の一例
    写真2 Cosmetopoeiaプロジェクトで取り上げる代表的な生物資源の一例
  • 写真3 フラワーマーケットに見る多彩な花々が生物資源そのもの
    写真3 フラワーマーケットに見る多彩な花々が生物資源そのもの
  • 写真4 11月のタイはロイクラトン祭り。街角には川に流される灯篭が作られていた
    写真4 11月のタイはロイクラトン祭り。街角には川に流される灯篭が作られていた
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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