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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2019年12月23日

近江谷 克裕
第70回 Elucをめぐる旅の物語--みたび スウェーデン・カロリンスカにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
本日はブラタモリ調で、「どうして、カロリンスカ研究所はスゴイのか?」。ここ3年間、カロリンスカ研究所で開催されたイメージングワークショップで講師をつとめていたが、この研究所のスゴサの源泉を探ってみよう。

カロリンスカ研究所、或いはカロリンスカ医科大学は、1810年に国王によって設立された世界最大の単科医科大学。ノーベル医学生理学賞の選考委員会があり、ノーベル賞医学生理学賞の記念講演も開催される。また、多くのノーベル賞受賞者も輩出している。「歴史と格式が、確かにスゴイね」

大きな通りを挟んで、一方の地区にはやっと完成した最新の病院と臨床研究の拠点がある(写真1,2)。その向かい側にはノーベル賞記念講演会が開催される建物や最新の設備を誇る基礎研究のためのビル群がある(写真3)。ここには昔からの建物も立ち並んでおり、研究と教育の拠点である。最近、この一画には、スタートアップカンパニーや製薬会社関連の建物も配置され、基礎研究から応用研究までの一貫的に研究が推進できる(写真4)。いずれも北欧の粋なデザインで構成されるおしゃれな研究所だ。「コンパクト、且つ建物が北欧だね」

基礎研究力の強さは群を抜いているが、私の専門の一つイメージングでは、世界中から有為な人材が集まり、自前で顕微鏡を作ってしまう研究者も多い。例えば、超解像顕微鏡でノーベル賞を受賞したHellのお弟子さんが新しい顕微鏡を作っていたりと、ほぼ最新の顕微鏡が研究者のニーズに併せてセットされている。面白いことに、ストックホルム工科大の先生が、ここに研究室を構えて研究をすることもできる。つまりは東工大の先生が東大の中に研究室を構えることが可能という事。「まさに研究のための組織か」

この研究所、例えば、100万試料のヒトマイクロバイオームのメタゲノム解析をすすめているが、かなり上手くいっているらしい。日本ではかなり苦戦しているのに、何故?実は、カロリンスカ病院は、北欧最大の街ストックホルム市周辺の公立病院の顔を持ち、周辺の住民を併せれば、100万人に近い住民を相手している。この公立病院の顔が、他ではマネができないコホート研究を推進できる力となっているらしい。「基礎、臨床研究が生み出す総合力の源泉だね」

でも、もっと凄いのは、研究者達の力だ。ヨーロッパの多くでは、教授という肩書ではなく、研究を主体的に統括するPI(principle investigator)が研究推進の基本単位である。実はPI達は外部資金採択率5%の戦いに勝ち抜く戦士でもある。この外部資金でポスドクとテクニシャンを雇うのであり、勝ち残ったPI達のみが本格的な研究が推進できる主役なのである。研究現場は激しい競争にさらされているのが世界の現状だ。

「単に歴史が古く、大きいからスゴイのではなく。良いPIを集め、基礎から応用研究を展開する総合力。そこに公立病院という別の顔が研究を後押しするんだね。さらに人に優しい北欧デザインが研究空間を包み込んでいるんだね。そりゃスゴイわ!」と、タモリさんは納得してくれるかな?でも、あるPI曰く「やっぱり、臨床医師と基礎研究者の融合は難しいな」と、いずこも同じか?
  • 写真1  最近、完成したカロリンスカ病院新棟
    写真1  最近、完成したカロリンスカ病院新棟
  • 写真2 真ん中奥がカロリンスカ病院新棟、そして臨床研究棟が囲んでいる
    写真2 真ん中奥がカロリンスカ病院新棟、そして臨床研究棟が囲んでいる
  • 写真3 基礎研究関連の建物群、ノーベル賞医学生理学賞の講演会場は中央右
    写真3 基礎研究関連の建物群、ノーベル賞医学生理学賞の講演会場は中央右
  • 写真4 基礎研究関連の建物の横には製薬会社の研究棟も
    写真4 基礎研究関連の建物の横には製薬会社の研究棟も
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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