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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2020年09月23日

近江谷 克裕
第79回 Elucをめぐる旅の物語-日本・四国山中にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
“なくなるもの”と、“なくらないもの”の差はどこにあるのだろうか?四国4県を数時間で廻れることを実感した四国の旅。朝、高松を出て、1時間ちょっとで高知県の碁石茶(写真1)、その1時間後には徳島県の阿波番(晩)茶(写真2、3)、そして、その2時間後には香川県で石鎚黒茶の原料の収穫地(写真4)を訪問した。四国は高速道路網もしっかりし、また碁石茶と阿波番茶は国道32号線でつながっているので、意外に簡単に4県マタギができた。この小旅行によって、3つの“なくならなかった“発酵茶を見ることができた。そこには最後の一人、或いは数人からの復活という共通の物語があった。

1度に3つの発酵茶を見たお陰で、3つの違いもよく理解できた。製造工程、最終製品も少しずつ異なっている。阿波番茶はシンプルに茶葉を煮て漬け込むが、他の2つは蒸しの後に漬け込む。また、碁石茶は重ねて成型し乾燥させるが、阿波番茶は茶葉を1枚ずつ乾燥させ、それを袋詰めして販売している。いずれにしてもカテキン、カフェインが少なく、すっきりした飲み口が特徴である。

3つの発酵茶は無形の民俗文化財として既に登録されているが、地域おこしと健康志向の高まりが復活を後押ししたのであろう。また、健康番組のお陰で全国区になった点も大事なポイントだろう。“なくならない”ためには、何か人を引き付ける物語と時代にあった価値の提供が必要なのかもしれない。とはいえ、“なくならない”ための努力、良い意味での頑固さが底辺に流れているような気もする。でも、いくら民俗文化財と言っても、人間は飽きやすい動物だし、忘れっぽいのも事実である。コアな客がいたとしても、時間の経過の中で、いつかその客はいなくなる。“なくならない”ためには努力を継続しなくてはいけないのだろう。

さて、ちょうど30年前、私はポスドク時代に生物発光の研究に出会い、今も続けている。だが、私より上の世代には比較的、生物発光を研究する方もいたが、私と同世代には生物発光の研究者の数は国内外を含めて少ない。当時、生化学や分子生物学全盛の時代、ホタルなどの生物発光を研究するのは生物学者くらいだった。なぜ、生物発光を研究しているのかと聞かれたものだ。まだレポータアッセイという技術が一般化していなかった時代でもあった。当然、発光クラゲのGFP(緑色蛍光タンパク質)の存在さえ世に知られていなかった。

ただ単に興味本位で始まった研究だが、「自分が研究しなければ、この学問は無くなる」という無邪気な使命感に燃えて30代は研究を続けた。そして、“なくならないもの”の方程式かもしれないが、40代になった2000年代、ホタルの発光レポータアッセイに対する期待に後押しされ、研究がやりやすい状況になった。さらに、2008年、下村先生がノーベル賞化学賞を受賞したことで、世間的にも重要性が認識され生物発光は“なくならない”研究になったように思える。最近では多くの若手研究者も増えていることは本当に喜ばしいことだ。

最後の一人からの復活という物語には、頑固さというより使命感という言葉が似合うのかもしれない。そう思うと、一人一人の使命感のような感情がアフターコロナの乗り越える力になるのではないだろうか?日本が“なくならないもの”であるために、

  • 写真1 碁石茶が作られる高知県大豊町の景色 
    写真1 碁石茶が作られる高知県大豊町の景色 
  • 写真2 阿波番茶を作る作業場。左は茶葉をゆでる釜、右は漬けている樽。
    写真2 阿波番茶を作る作業場。左は茶葉をゆでる釜、右は漬けている樽。
  • 写真3 発酵後の阿波番茶の乾燥している様子。このままパッケージされる。
    写真3 発酵後の阿波番茶の乾燥している様子。このままパッケージされる。
  • 写真4 石鎚黒茶の茶葉の切り取りあと。
    写真4 石鎚黒茶の茶葉の切り取りあと。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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