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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2020年11月20日

近江谷 克裕
第81回 Elucをめぐる旅の物語-日本・四国・徳島にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
プロフェッショナルと呼ばれるためには、それなりの苦労があるのは当然だ。執筆中の本に使用する写真の打ち合わせのため、徳島在住のプロカメラマンM氏の写真館を訪ねた。M氏は火山写真で有名だが、火山の光とは違う光にも魅入られ、発光生物の写真も手掛けている。日本国内に限られているとは言うが、北は北海道から南は八重山諸島まで、きれいな映像が撮ることができるなら、急にいなくなってしまう方である。よって、なかなか居場所を特定できない写真家だ。この11月は紅葉も含めて九州方面の山の写真を撮っていたそうで、たまたま徳島にいる日に訪ねることができた。
 
このコロナ禍、自然風景を撮る写真家には大変な日々のようだ。M氏は車で移動、昼夜撮影し、夜は車で寝泊まりするスタイルらしいが、コロナ感染者が少ない地域では、車のナンバープレートがチェックされることもあり、撮影後、他県に移動することもあったそうだ。また、コンビニなども要注意で、ある県のコンビニでは、他県ナンバーの入店を断っていたそうだ。お世話になった友人にもなかなか挨拶できない状況で、今年は不義理の駆け足の撮影旅行になったと嘆いていた。
 
プロの苦労話で印象に残ったのは、なるべく撮影場所は特定されない工夫をするということ。素人でも写真を見てインターネットで情報を探せば、毎年大事にしていた撮影スポットの場所が特定できる時代だそうだ。大事にしていたベストポジションはアマチアカメラマンにとっても撮影したい場所。写真から探り当てた場所で撮影まではしょうがないが、人によっては他のカメラマンに撮られたくないという心理から、その場所を荒らす方もいるそうだ。これまで見事な映像が撮れた森が激変したことがあったらしい。プロは絶対しない行為だとM氏は呆れながら話してくれた。
体力的な大変さも印象的だった。撮影機材自体も重いのに、時には重さ20㎏の6mもある梯子を持ちながら山を巡るそうだ。また、4Kカメラやドローンカメラなど、最新機器にもどん欲に挑戦し美しい風景を撮ることだけが優先されるのがプロの世界のようだ。タフでなければやっていけない、あくなき情熱がなければやっていけない世界である。プロのプロたる所以、それがプロの責任感、プライドかもしれない。
 
話は変わるが、学術会議問題とその対応を見ていると、政治家や役人の世界、学者の世界はプロフェッショナルじゃないと感じてしまう。私自身、学者の端くれだが、世界標準からみれば、いろいろな意味で日本の学術界はガラパゴス化、迷走しているように思えるし、日本という社会の風に踊らされているようにも思える。そして応用研究だ、基礎研究だと信念がなく漂っているようにも見える。やらなくてはいけないことより、組織の論理がまかり通り始めているような気もする。そんな部分を批判せずに、政府にしがみつく学者も学者だ。不勉強な政治家も未来に対する責任感が全く欠如している。
 
スポーツはプロ化することで世界標準に近づいたような気がする。ならば、学者も政治家ももっとプロ化する必要があるのかもしれない。そしてプロがプロであり続けるため、自らの能力を超えた情熱と責任感で、個が組織を超える時代に変える必要があるのかもしれない?
  • 写真1 写真家の話をして、写真を出すのは恥ずかしいが、最近、四国の風景が好きだ。
    写真1 写真家の話をして、写真を出すのは恥ずかしいが、最近、四国の風景が好きだ。
  • 写真2 こんな写真では簡単に場所は特定されるだろう。でも晩秋の空はきれいだ。
    写真2 こんな写真では簡単に場所は特定されるだろう。でも晩秋の空はきれいだ。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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