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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2020年12月22日

近江谷 克裕
第82回 Elucをめぐる旅の物語-日本・研究室にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
過日、NHKの「ダーウィンが来た」に出演した。光る鳥について、私見を述べたが、放送終了後、数日の間に4、50件の目撃情報が寄せられたと、番組ディレクターから連絡があり、少し驚いてしまった。光る鳥が多くの人の目に触れていて、そして、それが多くの人の記憶に残っていたことがである。かくいう私は、ビッグイシュー誌で「暗闇の達人」という号で特集されたほどの闇夜を歩いてきた人間だが、これまで、一度も光る鳥に遭遇したことがないのである。

光る鳥の目撃談は、古いところでは大プリニウスの博物誌の中にもあるが、とにかく、古今東西、その目撃談の記録は多くの文献に散在する。一方、面白いことに、イヌやタヌキ、クマが光っていたという記録はない、あるとすれば、蛇の目が光っていたとのたぐいである。狐火という言葉があるが、これはキツネが光ったということではなく、森の中がぼーっと光っていることを指していて、さしづめ発光キノコでも見たのであろう。狐火は英語でもFox-fireと呼ばれているが、ある本を読んでいたら、フランス古語では「フォルスファイアー(にせものの火)」といっていたらしく、これがFox-fireになったという説が紹介されていた。日本も西洋も、同じ狐火になるのだが、日本の語源が気になるところである(写真1)。

番組収録の際、これはおそらく白い鳥に光があたったことによる反射であると、月が光るのと同じ原理だと最初に言ったのだが、番組では完全にカットされていた。その後、光る生きものの専門家が考える可能性はということで、発光バクテリアによる光り病説、ヤコウチュウ説、発光キノコの菌糸或いは胞子説、そして発光ミミズ説を披露した。が、ディレクター氏が視聴者の興味をくすぐるような構成で番組は作られており、私は見事に夢を追う研究者を演じる体(てい)になっていた。さすがの編集に脱帽である。

番組では紹介されなかったのが、発光ミミズ説が面白い。1888年、Harker先生は、闇夜の中、馬の脚が光っているのを目撃した。調べたところ、そこには小さい発光ミミズが数百匹いたという。発光ミミズは大きく二つのものがあり、数cmの小型のものと、20cmを超える大型のものである。どちらも黄緑色に光る粘液を出す。前者は日本にも生息し、冬の時期になると側溝などで見つけることできる。数年前に名古屋大学の先生が名古屋大学の構内にもいたと報告するくらいで、都会でも目にすることができる。一方、大型のものを私はニュージーランドで見たが、公園で簡単に採取できることに驚くとともに、その大きさ、光の強さに驚かされた。

光る鳥といえば、手塚治虫の「火の鳥」を思い出す。「火の鳥」は永遠の生命の象徴として描かれていたと記憶する。光るイヌやタヌキはいなくとも光る鳥はいて欲しいというのは人間の性(さが)なのかもしれない。いて欲しいという気持ちが、どこかの光に照らされた鳥を、光る鳥と判断し、忘れがたい記憶として刻まれたのかもしれない。自戒を込めて思い出すカエサルの「人間は見たいものしか見えない生きもの」という言葉が「人間は見えないものも見える生きもの」と言い換えてもいいのかもしれない。昨今のコロナ禍の中、日本の為政者達がいけないのは、見えないものも都合よく見てしまい、都合の良い言葉に置き換えるような、そんな性(さが)かもしれない。
  • 写真1 私の豆知識を支えるハーベィ先生の著書
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  • 写真2 今年も一年、お世話になりました。来年はもっと良い年に、、
    写真2 今年も一年、お世話になりました。来年はもっと良い年に、、
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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