カルナバイオサイエンス株式会社

製品検索
  • Home
  • ルシフェラーゼ連載エッセイ

ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2021年04月20日

近江谷 克裕
第86回 Elucをめぐる旅の物語-大工大キャンパスにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
久しぶりの対面講義に緊張した。大学内には何箇所ものサーマルカメラが、併せてアルコール消毒液が、さらには教室には除菌アルコールシートがあり、以前の大学とは違った景色だった。私は毎年、4月から5月にかけて大阪工業大学で講義を行っているが、昨年はすべてオンライン講義という、まったく相手の見えない、つまりは「空気を読めない」講義を行った。今年は何とか対面講義ができ、学生の顔を見ながらの講義ができるようになった。以前と変わらぬ学生さんたちの姿にホッとした。そして寝ている学生も許せる気分になった。

時代は変わったと、オンライン講義の有用性を語る方もいるが、教育の基本は対面だと思っている。学生の顔を見ない講義なら、機械にだってできるだろう。こんな時期だからしょうがないという方もいるだろうが、節度を守れば、リスクは少ないはずだ。よって、相手の表情を読み取りながら、話にメリハリを付けるのがプロだと思っている(私がプロであるかは別な問題だが)。マスク越しでも意外と相手の表情を読み取ることができると実感した。というものの、残念ながら2回目の講義からコロナの影響でオンラインの振り出しに戻った。私にとっても学生にとっても、つらい日々が始まるようだ。

昨年度から研究室のデータ検討会にも参加、学生たちの実験結果にコメントした。しかし検討会自体も前期はWEBで実施、皆の顔を見たのは後期からだった。当然、私が最も楽しみにしていたコンパ(古い表現?)も一度もできなかった。一方大学の方針で、1年を通じ実験室に入る人数は制限され、細かい時間管理の中で、学生たちは実験に励むことになった。でも限られた時間内では、数をこなしてこそ上手くなる生化学実験の手技は習得できず、不満足な研究成果で卒業した学生もいた。理工系学生にとっての最後の修練の場が失われたことに、コロナとは言え、残念というよりは、何か可哀そうな気分になった。私の実体験でもあるが、貴重な20代の1年間を一つのテーマに打ち込むことは人生にとって貴重なものだ。

以前に書いたかもしれないが、卒業研究は「観・考・推・洞」(いずれも後ろに「察」)を身に着ける場としての大切だと思っている。当然、卒業後に研究に関わる職種につかない人もいる。が、どんな職種でも物事や事象、人間関係を含めて観察し、考察することは基本であり、その作業を繰り返すうちに何かを推察でき、それを確かめる一連の作業・過程の中で、仕事をする人間としての自信が、洞察の中から生まれるだろう。と、講義の最初の日に言うことにしている。

さて、こんなご時世なので仕事の関係でWEB会議に参加することが多い。しかし、どうも意思疎通が上手くいかないような気がする。画面を通じて相手の顔が見えるから、会議全体の空気は読める。だが、だからこそ、自分はどうするかという「行間が読めない」のである。しかもWEB会議は「退室」ボタンをクリックすれば、そこですべてが終わってします。立ち話をしながら、「行間を読む」作業も出来ないのである。今、気になるのは「空気が読める」人間が増えすぎて、それが「空気を読め」という同調圧力を生み出していることである。今こそ、「行間を読む」ことで、次につなげる何かを生み出すことが重要なはずだ。やはり会議は緊張する対面だろう!
  • 写真1 大阪工業大学の前の八重桜がきれいでした。
    写真1 大阪工業大学の前の八重桜がきれいでした。
  • 写真2 大阪工業大学の前の八重桜がきれいでした。
    写真2 大阪工業大学の前の八重桜がきれいでした。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
LinkedIn