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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2022年08月22日

近江谷 克裕
第102回 Elucをめぐる旅の物語-タイ・ラヨーン県にて-②
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
タイでは素敵な笑顔に出会う。今回のタイ訪問ではVISTECの大学院生Dew君の学位審査に参加した。彼はつくばの研究所に数か月間の短期留学した経験もあり、多くの研究成果を生み出した優秀な研究者の卵だ。発表は彼らしくスマートで、学位審査の受け答えもしっかりしていた。ただし、タイの先生のスタイルなのか、聴衆の質問にPimchai先生自らが回答する姿には彼も私も苦笑いものだ。Dew君は発表の最後に目に涙を溜めながらPimchai先生やお世話になった先生方に謝辞を述べていたが、涙の後の笑顔はとびきりであった(写真1)。

今回の旅では、しばしば大学近辺のローカル食堂にお世話になった。南国ゆえに壁はなく、屋根だけの掘っ建て小屋風だが、風通しも良く快適だ(写真2)。タイビールは軽い飲み口で暑い気候にも、タイ料理にも良くマッチしている。そのため、今回も飲みすぎてしまったが、心地よい酔い加減で店を見回すと、その一角にお菓子のコーナーを見つけた。これは、店の御主人の13歳の娘さんの小さな売店。彼女は入荷から販売まで、自らの手で取り仕切っている。私も購入したが、飛び切りの笑顔でお釣りをくれた(写真3)。酔っ払い客などの顧客に併せて、なかなかの品ぞろいであった。親に負担をかけないで叶えたい夢、あるいは欲しいものがあるのかもしれない。日本ではなかなかお目にかかれない光景であった。

さて、13歳の女の子が進める共存共生(寄生?)型ビジネスだが、タイの現状をよく表している気がする。タイの街角にはセブンイレブンやローソンなど、日本で見かけるコンビニエンスストアは何処にでもあるが、これらコンビニの近くにはナイトマーケットも共存している(写真4)。コンビニで買い物したついでなのか、ナイトマーケットで売られれている地元の総菜を購入したついでなのかはわからないが、両方とも繁盛している。グローバル化の象徴でもあるコンビニと地方経済の主役であるマーケットが混在し、共栄できるところがアジアの面白さかもしれない。そんな意味で、日本にアジアを感じないのは、地方に根差した経済の衰退が一因にあるように思えてならない。

以前も紹介したが、タイ王室はロイヤルプロジェクトを通じて、タイの少数民族を含めて地方を支援する事業を展開、併せて国の研究機関なども地方特産品の生産や商品化を支援している。一方、VISTECのPimchai先生も農産物の安全管理や廃棄物の再利用のための研究を実施、自らが設立したスタートアップ企業で、地方経済に貢献できる研究成果の実証試験、さらには事業展開を進めている。故郷を大事にする一つの貢献の姿、いや、冷静な判断の元、地方経済の活性化というビジネスチャンスへの挑戦かもしれないが、ここでも共存共栄を目指すアジアの底力を感じた。

タイに滞在中は食事やピクニックなど、多くの時間を大学院生やポスドク達と過ごしていた。笑顔の絶えない彼らとの時間は、日本でバタバタと暮らす私には貴重なものである。研究者として将来の夢、今、興味ある研究テーマなど、彼らとはいろいろな話ができた。日本と同様、タイでもアカデミックポストが少なく、就職には苦労している。でも、アジアの若者たちは夢を持ち、叶えようとする力が、素敵な笑顔の下にあるように感じた。私ができることは、同じ目線で会話し、彼らの成功を精神的に後押しするだけかもしれないが。
  • 写真1 Dew君は恩師の前で涙。その後には素敵な笑顔に。
    写真1 Dew君は恩師の前で涙。その後には素敵な笑顔に。
  • 写真2 VISTEC近くのレストランでの一コマ。よく飲み、よく話すがモットー。
    写真2 VISTEC近くのレストランでの一コマ。よく飲み、よく話すがモットー。
  • 写真3 お菓子購入後、13歳の娘さんと記念写真。
    写真3 お菓子購入後、13歳の娘さんと記念写真。
  • 図4 コンビニエンスストアの近くのナイトマーケットには地元食材が一杯。
    図4 コンビニエンスストアの近くのナイトマーケットには地元食材が一杯。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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