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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2023年02月21日

近江谷 克裕
第108回 Elucをめぐる旅の物語-日本・東京、そして千葉にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
「二月は逃げて走る」というが、本当にそうだ。コロナ禍ではなかなか開催できなかった対面による催しものが本格的に始動し始めたのだろう。私も2月は走り続けている。

2月9日、JAXAの主催する“ISS・「きぼう」利用シンポジウム、第3部:サイエンスと「きぼう」”にパネリストとして参加した。これまでシンポジウムはコロナ禍を受け、ネット配信で開催されていたが、今年から会場に観客を入れYouTubeで同時配信することになった。場所は東京タワー・フットタウンのイベント会場であった(写真1)。このシンポジウムはISS運用終了後(ポストISS)を見据えて、地球低軌道における科学利用を継続していくことの重要性、国が科学基盤を支えていくことの重要性について議論する場として開催された(事務局の弁)。

私たちの研究チームは、ウミホタル発光酵素の結晶構造解析をJAXAのチームと共同で行っている。最近、「きぼう」内で良い結晶が得られ、その3次元構造が明らかになりつつある。そのこともあり、私は「きぼう」の科学的な成果を発信するというミッションをいただき参加することになった。東北大学の山本雅之先生などの錚々たるパネリストに少し緊張したが、何とか役割をこなすことができた(写真2)。しかし、このセッションの台本は有名無実で、ファシリテータの金井飛行士の操縦次第。冷や汗ものであったことを、YouTubeを視聴した方には白状しておきたい。

次に2月18日、“千葉県の生物教育を面白くする会”が主催する催しで、ウミホタルの話をした(写真3)。千葉県では館山を中心に東京湾岸でウミホタルが良く採れ、中学、高校の先生たちの中ではウミホタルを教材としている方が多い。しかし、そのウミホタルの光が生命科学の中で、どう位置付けられているのか、どのように生かされているかの情報が伝わっていないのが現状である。これには、私にも責任があると感じて講演を快諾したわけである。

会場には50名近くの教師の方や教師を志す学生さんが集まってくれ、始めに「面白くする会」の先生がウミホタルの発光のデモンストレーション行ってくれた(写真4)。ウミホタルは乾燥品でも生きたものでも青色の光を観察でき、参加者はその光の美しさに興味を持ってくれたようだ。発光生物は学校教育における良き教材であることが実感できた。

私の講演は、ウミホタルの発見の歴史から取り上げることにした。最近、言葉に対するこだわりのせいか、なぜ?ウミホタルと呼ばれたかが気になっている。昔、千葉県ではウミホタルのことを「アンケラ」や「ヒキ」と呼んでいた。「ヒキ」とは防諜用語で、太平洋戦争中にウミホタル「ヒキ」を子供たちが採取、乾燥品を軍に納めていたのである。軍はこれを戦闘中の灯りに活用しようとしていた。この記録は千葉県の安房文化遺産フォーラムに記録されているが、若い先生たちは知らない方も多いので、是非、子供たちに歴史を伝えて欲しいと少し熱弁をふるった。ウミホタルを通じて平和が大事なことを、そしてウミホタル発光酵素の結晶構造解析を通じて、宇宙空間こそ科学の進展に重要な場であることを、改めて伝えたいと思った次第である。

さて、2月下旬から海外出張を2件ほど入れてある。日本に戻って落ち着く頃は3月の下旬の頃になるだろう。「3月は去る」とはよく言ったものだ。
  • 写真1 東京タワー・フットタウンのイベント会場
    写真1 東京タワー・フットタウンのイベント会場
  • 写真2 第3部の出演者一同(JAXA公認の1枚)
    写真2 第3部の出演者一同(JAXA公認の1枚)
  • 写真3 講演会のポスター
    写真3 講演会のポスター
  • 写真4 講演会場でのワンショット
    写真4 講演会場でのワンショット
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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