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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2023年03月20日

近江谷 克裕
第109回 Elucをめぐる旅の物語-ブラジル・ソロカバ市にて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
久しぶりにブラジルを訪問した。私が2020年2月末にブラジルから帰国した後、コロナ禍のため、渡航が禁止されてから3年である。2023年のブラジルではビルの新築工事が盛んな一方、ショッピングモールでの店舗の閉鎖が目立ち、コロナ以前ほどの賑わいには回復してはいなかった(写真1―4)。それでも、道で行き交うマスクなしの人々の表情は明るく、いつものブラジルである。マスクなしの日本の日常に慣れたためか、マスクを着けていないと違和感を持ったが、これまでの長すぎたマスク生活のせいだろう。
 
この3年間で変わったことに、大統領がボロソナロからルーラになったことだろう。ボロソナロは軍人出身で、右派的な言動と共に、環境保護よりは経済活動を優先させる政策をとった。よって、現在の建設ラッシュはボロソナロ効果かもしれない。その分、例えば、アマゾンなどの自然破壊は進行し、搾取がすすみ貧富の差が助長された。そのためリベラル派や若者の支持を失い、ルーラが大統領になったのだろう。ボロソナロは地球温暖化など信じず、学者を信用しなかった。大学は左派の巣窟として、激しい予算措置など厳しい時代だった。ルーラへの支持の理由の一つは、この反動だろう。
 
友人とウクライナ戦争の話をしたが、BRICsとG7の国々では違った見方をしているように感じた。私は多くの国々を訪問した経験から、G7とBRICsの間には平均値に大きくな差はなく、旅人として過ごすには一長一短があるものの、どの国も住みにくいことはなかった。では、何が違うのか?私は平均値が近くともバラツキがBRICsでは格段に大きいと感じている。つまり貧富の差、地域差がG7よりBRICsは大きいと思っている。訪ねてみた限り、インド、ブラジルのようなスラム街はG7にはないし、中国、ロシアほどの地域、民族の違いによる差別・区別はG7の国々には無い。

G7にも貧困の問題、格差の問題があるのは事実だが、BRICsを訪ねてみれば、その差は歴然としている。よって、BRICsの為政者は何らかのやり方で民衆の不満を解消しようとしている点は明らかだ。そんな中、アメリカをはじめとしたG7の上目線の価値観の押し付けに対する反発は大きい。ロシアの侵略自体が悪いが、追い込んだのはG7の方であり、且つ正義の味方を気取られることにもうんざりしているのが、BRICsの人々の根底にあるのかもしれない。私は違ったところで同じ景色を見ることが重要だと思うが、まさに、ウクライナ戦争の景色は異なって見え、世界は分断されつつあると感じた。

ところで、私の友人は大学の左派的な流れにも、ボロソナの右派的な流れに組しないためか、大学の中で浮いてしまった存在と自嘲気味であった。友人は単に研究ができれば良い、そのためには社会が落ち着いて、基礎研究や教育などに支援いただけるのなら、そこにイデオロギー論争など必要ないという考え方かもしれない。確かに日本もそうだが、分断された世界では、一方に身を寄せることは楽なことかもしれない。友人はあえて、一方の社会を選んではいないのだろう。多分、寄りかかりすぎることの危険性を感じているのかもしれない。そう思うと、この3年間にマスクを付けることに甘えすぎていたのかもしれない。よって、こんな状況を卒業したいものだ、マスクなど、いや、それ以上に分断した社会など。
  • 写真1 ソロカバ市内では至る所でビル工事が、新築ビルが目立つ。
    写真1 ソロカバ市内では至る所でビル工事が、新築ビルが目立つ。
  • 写真2 ホテルの隣の敷地は整備中。また、何かが建ちそうだ。
    写真2 ホテルの隣の敷地は整備中。また、何かが建ちそうだ。
  • 図3 大型ショッピングモール内には至る所が閉店中。
    図3 大型ショッピングモール内には至る所が閉店中。
  • 写真4  大型ショッピングモール内の食堂街も閉店している店が点在する。
    写真4  大型ショッピングモール内の食堂街も閉店している店が点在する。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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