カルナバイオサイエンス株式会社

製品検索
  • Home
  • ルシフェラーゼ連載エッセイ

ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2023年12月20日

近江谷 克裕
第118 回 Elucをめぐる旅の物語-インド・デリー、カジュラーホー、サトナにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
困った、パスポートがない。いざ、ホテルについて、フロントにパスポートを渡そうとしたら、パスポートがない。しかも、このホテルには予約はされていない。同じ名前の系列ホテルを予約していたようだ。パスポートは空港での両替に使った記憶はあるので、紛失場所は両替所かタクシーの中のはず。まずはインド人の友人のいるホテルに行くしかない。ホテルでタクシーを呼んでもらうが、渋滞のためタクシーが来ない。焦るばかりである。

予約したホテルにたどり着いて電話をかけるが、両替所には全くつながらない。まずは友人と空港の両替所に、そして、タクシー会社に電話をし、領収書に記載されているドライバーにコンタクトしてもらう。渋滞の中、焦るばかりのタクシーの中、タクシーにはないことが判明した。やっと空港に着くが、ここで問題が。インドの空港では、パスポートを見せない限り、空港内には入れない。出入り口には兵隊さんが銃をもって監視している。友人が、説明しても中には入れない。しかし、兵隊さんに両替所に何とか行ってもらったら、私のパスポートはあった。パスポートの写真を見比べ、笑顔でパスポートを返され、やっとホッとした。

パスポートの紛失は2度目だ。一度目はブリュッセルでコソ泥に盗まれたが、翌日には病院の前に捨てられていた。しかし今回は完全に自分のミスである。お金を早く両替して、タクシーに乗って目的のホテルに行くことの2つの事柄が頭の中で交差し、両替所の新人さんがもたつく間に、現金だけを手に、タクシー乗り場に向かったのが、ことの真相であった。その後、2週間の旅を終えたが、いつもより、本当に疲れた。歳のせいにはしたくないが、2つのことが同時にできない自分に気づかされた。

翌日、パスポートを堂々と拡げて、空港に入り、デリーからインド中部のカジュラーホーへ向かった。カジュラーホーはやたら牛がたむろしている街であった(写真1)。翌日、世界遺産でもあるラクシュマナ寺院群を訪ねた。10世紀に建立されたもっとも有名な寺院は男女交合の官能的なレリーフが有名である(写真2)。しかし、私が最も興味を持ったのは3つの異なる屋根の形を持つ寺院である。時の王様が宗教間で争うより、仲良くしようという意図で左からヒンズー教、仏教、イスラム教の屋根としたそうだ(写真3)。きっと、この王様は平和と共栄という、二兎を追っていたのだろう。

さて、今回の旅の目的はサトナのAKS大学で開催された国際カンファレンスに参加するためである(写真4)。この会議ははインド政府の研究機関であるCSIRが開催する大規模カンファレンスのサテライト会議に位置付けられている。インド政府は地方の比較的大きな私立大学の研究活動を奨励するため、併せて、招聘した多数の外国人研究者を活用するために企画しているそうだ。数年に一度の大きな行事に研究者の卵たちは興奮気味で、質問も多かった。インド政府らしい上手い宣伝活動であり、二兎追うどころではなく、三兎、四兎と狙い、国力の充実を図っているのだろう。

日本はどうだろうか、見回してみると多くの課題を抱え、気づいたら何も解決していないのが現状だ。まるで私が急ぐあまりに2つの失態をしたように、日本も失態続きだ。一兎さえ追えない現状を変えることができるのは、最後の時かもしれない。
  • 写真1 街の中ではウシが主役。
    写真1 街の中ではウシが主役。
  • 写真2 千年前に建てられたラクシュマナ寺院群の官能的なレリーフ。
    写真2 千年前に建てられたラクシュマナ寺院群の官能的なレリーフ。
  • 写真3 百数十年前に建てられた寺院はヒンズー教、仏教、イスラム教の様式の屋根。
    写真3 百数十年前に建てられた寺院はヒンズー教、仏教、イスラム教の様式の屋根。
  • 写真4 AKS大学内で開催された国際学会を砂絵が歓迎する。
    写真4 AKS大学内で開催された国際学会を砂絵が歓迎する。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
LinkedIn