- Home
- ルシフェラーゼ連載エッセイ
ルシフェラーゼ連載エッセイ
連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~
生命科学の大海原を生物の光で挑む
投稿日 2024年06月21日

- 第124回 Elucをめぐる旅の物語-ブラジル、アルゼンチン・イグアスにて-
- 近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
世界最大の滝、イグアスの滝は圧巻であった(写真1,2)。TVなどで見ていたので、そう簡単に驚くことはないと思っていたが、実際の景色は想像以上であった。滝の周辺の虹の美しさは例えようがなく、子供の頃、虹の下には宝物があると言われていたが、本当にそうなのかもしれないと思った。こんなに美しい風景に出会えるなんて、世界は広いと改めて感じた。カインガング族の悪の神ムボイがイグアス川を引き裂いたという伝説があるそうだが、確かにそんなことを連想させる滝である。
午前中はブラジル側から、午後はアルゼンチン側からと思って、ドライバーを雇って国境を超えたが、何だかんだとドライバーに騙され、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジルの国境の川の交わりを見た後、最後はビールを飲んでブラジルに引き返すことになった(写真3,4)。アルゼンチン側のイグアスの滝までは少し面倒な道のようで、ドライバー氏は初めから行く気はなかったようだ。そのため、ポルトガル語のみで押し切り、私たちを適当にあしらったようだ。しかし、アルゼンチンの街並みはブラジルとは異なりスペイン語圏の香りが、また、ビールの味は格別であった。ポルトガル語のブラジル、スペイン語のアルゼンチンは確かに違っていた。
今回、第22回ISBC(国際生物発光・化学発光シンポジウム)がイグアスで開催された。友人のバディム・ビビアーニ教授が大会会長であり、彼によると、シーズンオフの今、観光地イグアスは会場費など安く済むそうだ。世界各地から200名程度の参加者もあり、まずまずの盛況と言えようが、アメリカやカナダなどからはビザが障壁となったのか、参加者が少ないのが残念であった。それでも多くの友人に会えて、楽しい会となった。また、年の功なのであろうが、基調講演として最初に講演するという栄誉も与えられ、思い出深いシンポジウムとなった。
私はISBCに30年くらい前から参加し、これまでに会長も務め、2016年にはつくばでISBCを開催したこともある。今でも評議員の一人であるが、シンポジウム開催中は何かと忙しい。次の会長選びや開催地の問題。或いは若手賞を誰に与えるかなど、暇なしの状況が続く。また、若い研究者と古い研究者を引き合わせるなど、世話焼きおじさんが一つの仕事になっている。これも私にとっては楽しい仕事の一つである。コロナ後の本格的な開催であり、もう少し日本からの参加も欲しかったが、移動に30時間以上かかる上に、6月では大学の講義の関係もあり大学教官の参加が難しいのだろう。
イグアスの滝の水量とそのエネルギーはすさまじいが、この100年で30cmほど削られただけだそうだ。神ムボイが引き裂いた大地は極めて安定な大地であり、その景観に大きな変化はないようだ。翻って、私の参加するISBCの地殻変動は激しく、時世の影響もあるが、ロシアやアメリカ、中国の参加者は近年、減少気味である。これは一つにISBCが基礎を重視する国際学会であり、応用研究を重視する方から敬遠されているのかもしれない。また、私のような年寄りが、十分に若手、中堅を育成してこなかったせいかもしれない。さらには、一部、暴走気味のボスもおり、それを止めきれない、これまた私たちの世代のせいかもしれない。組織の維持とは難しいものであり、神ムボイの力が欲しいものだと思った次第だ。でも、水の流れに任せ、変化していくことも重要な気もした。本当に答えのない世界だ。
午前中はブラジル側から、午後はアルゼンチン側からと思って、ドライバーを雇って国境を超えたが、何だかんだとドライバーに騙され、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジルの国境の川の交わりを見た後、最後はビールを飲んでブラジルに引き返すことになった(写真3,4)。アルゼンチン側のイグアスの滝までは少し面倒な道のようで、ドライバー氏は初めから行く気はなかったようだ。そのため、ポルトガル語のみで押し切り、私たちを適当にあしらったようだ。しかし、アルゼンチンの街並みはブラジルとは異なりスペイン語圏の香りが、また、ビールの味は格別であった。ポルトガル語のブラジル、スペイン語のアルゼンチンは確かに違っていた。
今回、第22回ISBC(国際生物発光・化学発光シンポジウム)がイグアスで開催された。友人のバディム・ビビアーニ教授が大会会長であり、彼によると、シーズンオフの今、観光地イグアスは会場費など安く済むそうだ。世界各地から200名程度の参加者もあり、まずまずの盛況と言えようが、アメリカやカナダなどからはビザが障壁となったのか、参加者が少ないのが残念であった。それでも多くの友人に会えて、楽しい会となった。また、年の功なのであろうが、基調講演として最初に講演するという栄誉も与えられ、思い出深いシンポジウムとなった。
私はISBCに30年くらい前から参加し、これまでに会長も務め、2016年にはつくばでISBCを開催したこともある。今でも評議員の一人であるが、シンポジウム開催中は何かと忙しい。次の会長選びや開催地の問題。或いは若手賞を誰に与えるかなど、暇なしの状況が続く。また、若い研究者と古い研究者を引き合わせるなど、世話焼きおじさんが一つの仕事になっている。これも私にとっては楽しい仕事の一つである。コロナ後の本格的な開催であり、もう少し日本からの参加も欲しかったが、移動に30時間以上かかる上に、6月では大学の講義の関係もあり大学教官の参加が難しいのだろう。
イグアスの滝の水量とそのエネルギーはすさまじいが、この100年で30cmほど削られただけだそうだ。神ムボイが引き裂いた大地は極めて安定な大地であり、その景観に大きな変化はないようだ。翻って、私の参加するISBCの地殻変動は激しく、時世の影響もあるが、ロシアやアメリカ、中国の参加者は近年、減少気味である。これは一つにISBCが基礎を重視する国際学会であり、応用研究を重視する方から敬遠されているのかもしれない。また、私のような年寄りが、十分に若手、中堅を育成してこなかったせいかもしれない。さらには、一部、暴走気味のボスもおり、それを止めきれない、これまた私たちの世代のせいかもしれない。組織の維持とは難しいものであり、神ムボイの力が欲しいものだと思った次第だ。でも、水の流れに任せ、変化していくことも重要な気もした。本当に答えのない世界だ。
写真1 イグアスの滝の一部だけでも水量がすごい。
写真2 イグアスの滝の何か所にも虹が架かる。
写真3 アルゼンチン側から見ると、右の対岸がブラジル、左の対岸がパラグアイ。
写真4 アルゼンチン側の街がどのパブでのんびり休憩する。
- 著者のご紹介
- 近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。