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ルシフェラーゼ連載エッセイ
連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~
生命科学の大海原を生物の光で挑む
投稿日 2024年09月20日

- 第127回 Elucをめぐる旅の物語-ルーマニア・ブカレストにて-
- 近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
ブカレストへ向かうオーストリア航空便で日本人CAさんに出会った(写真1)。通常、航空会社の外国人CAは出身国との間の国際線に乗るそうだが、この航空会社では近隣とのフライト乗務にも外国人CAが駆り出されるそうだ。ブカレスト便には珍しい文庫本を読む日本人に彼女から話しかけてきた。彼女は20年近く、オーストリア航空に勤務するが、最近、日本との往復便では1割程度の日本人しか搭乗しないとのこと。確かに私が乗った羽田―ウィーン便のANAも半分くらいが外国人であった。この5年くらいで、日本人の海外旅行客がずいぶん減ったと、私も同じことを実感していた。
CAさんと私の間で、特に若者の海外離れが気になると、日本人の内向き加減が、もろに若者に反映しているようだという話になった。ANAのウィーン便だが、エコノミーは外国人で一杯、一方、不思議なことに日本人のある年代層のビジネスクラスの団体旅行客が多いことに気付いた。確かに秋のヨーロッパは、仕事というよりは観光を目的とした旅が中心かもしれない。よって、日本人富裕層の優雅なツアーは、それなりに盛況なのかもしれない。確実に、日本の貧富差が拡大しているのも実感している。
CAさんから、なぜ?ルーマニアに行くかという質問になった。私はブカレスト大学の客員教授でもあるが、ルーマニアの豊かな自然、例えば、ドナウデルタが魅力的と話した。彼女からはオーストリアも自然豊かで、自分もその点が気に入っているとの話がでた。しかし、ヨーロッパは数千年前から人間が活動し、何度も飢餓や争い、民族の移動が絶えなかったので、実は自然自体は原始から続くものなどなく、見えている豊かな自然は、作られたものにすぎないと、その点、ドナウデルタなどは世界自然遺産であり、人が踏み込んでいない地域も残されているという説明をした。実際、見て、触れてみないとわからないことが多い。だからこそ、若者には旅をして欲しいものだ。これも彼女と同意した話である。
先週(9月2週目)からの中欧、東欧では大雨が降り、ここルーマニアの西部も川の氾濫も多かったようである。しかし、ブカレスト自体は被害もなく、街もいつもの通り、せっかちなバルカン人はせわしなく暮らしていた。昨年は10月に訪問したが、今回は初めての9月の訪問。今年は昨年ほどの残暑は無いようだ。日中はまだまだ半袖のシーズンだが、朝晩の冷え込みもあり、清々しい季節である。街の木々は色づき始めているが、落葉の季節ではないことが10月との違いのような気がした(写真2、3、4)。10日間ちょっと滞在する予定だが、今年は何を見ることができるだろうか?
しかし、外国で働く日本人女性には独特の色合いを感じる。米国の大学で働く、友人を思い出してしまった。家族と共に過ごす人生を、社会の一員として研究を楽しむ彼女に感じた色合いに近いのである。よって、別れ際に、「ガンバッテください」なんて声がけするより、「私も頑張ります」と言いたくなる自分がいた。これも日本で働く女性には感じない感覚である。かのCAの最後の言葉は、「オーストリア航空は、ヨーロッパでも最安値の航空会社の一つ、是非、次回からは、わが社を利用してください」でした。やっぱり、ガンバッテくださいなんて、言えそうにもないな。
CAさんと私の間で、特に若者の海外離れが気になると、日本人の内向き加減が、もろに若者に反映しているようだという話になった。ANAのウィーン便だが、エコノミーは外国人で一杯、一方、不思議なことに日本人のある年代層のビジネスクラスの団体旅行客が多いことに気付いた。確かに秋のヨーロッパは、仕事というよりは観光を目的とした旅が中心かもしれない。よって、日本人富裕層の優雅なツアーは、それなりに盛況なのかもしれない。確実に、日本の貧富差が拡大しているのも実感している。
CAさんから、なぜ?ルーマニアに行くかという質問になった。私はブカレスト大学の客員教授でもあるが、ルーマニアの豊かな自然、例えば、ドナウデルタが魅力的と話した。彼女からはオーストリアも自然豊かで、自分もその点が気に入っているとの話がでた。しかし、ヨーロッパは数千年前から人間が活動し、何度も飢餓や争い、民族の移動が絶えなかったので、実は自然自体は原始から続くものなどなく、見えている豊かな自然は、作られたものにすぎないと、その点、ドナウデルタなどは世界自然遺産であり、人が踏み込んでいない地域も残されているという説明をした。実際、見て、触れてみないとわからないことが多い。だからこそ、若者には旅をして欲しいものだ。これも彼女と同意した話である。
先週(9月2週目)からの中欧、東欧では大雨が降り、ここルーマニアの西部も川の氾濫も多かったようである。しかし、ブカレスト自体は被害もなく、街もいつもの通り、せっかちなバルカン人はせわしなく暮らしていた。昨年は10月に訪問したが、今回は初めての9月の訪問。今年は昨年ほどの残暑は無いようだ。日中はまだまだ半袖のシーズンだが、朝晩の冷え込みもあり、清々しい季節である。街の木々は色づき始めているが、落葉の季節ではないことが10月との違いのような気がした(写真2、3、4)。10日間ちょっと滞在する予定だが、今年は何を見ることができるだろうか?
しかし、外国で働く日本人女性には独特の色合いを感じる。米国の大学で働く、友人を思い出してしまった。家族と共に過ごす人生を、社会の一員として研究を楽しむ彼女に感じた色合いに近いのである。よって、別れ際に、「ガンバッテください」なんて声がけするより、「私も頑張ります」と言いたくなる自分がいた。これも日本で働く女性には感じない感覚である。かのCAの最後の言葉は、「オーストリア航空は、ヨーロッパでも最安値の航空会社の一つ、是非、次回からは、わが社を利用してください」でした。やっぱり、ガンバッテくださいなんて、言えそうにもないな。
写真1 オーストリア航空の機内にて、さすがにCAさんの写真は個人情報。
写真2 ブカレスト大学の歴史は、およそ160年。校内を歩くのも楽しい。
写真3 ブカレスト市内の色づき始めてはいる木々。
写真4 東欧の夕焼けに癒されるひと時。
- 著者のご紹介
- 近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。