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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2024年12月20日

近江谷 克裕
第130回 Elucをめぐる旅の物語-インド・デリー、プネにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
インドの学会に参加する楽しみの一つにカルチャープログラムがある。主催する先生らがアレンジし、開催する大学の学生が民族舞踊や音楽などを紹介するもので、インド各地の特色や文化を知ることができ、私の楽しみの一つでもある。たまにプロの方も参加するが、素人的な良さと、若者のホスピタリティとがインドの学会での疲れを癒してくれる。何せ、時間を守らない、スライドがごちゃごちゃの講演を長時間にわたり聞かされ、夕方には疲れはマックスに達している中の憩いの場だからである。

11月にインドで3つの国際学会に参加したが、名門国立大学と新興私立大学の差が面白かった。デリーではJNUジャワハルラール・ネルー大学で、プネではDPU ドクター・パティル大学で開催されたものだ。前者はネルーの名前を冠し、正面玄関にはネルーの胸像が飾られ、彼の学問への思いが刻まれていた(写真1)。インドでも屈指の名門校であり、全国から集まったものはエリート中のエリートである。カルチャープログラムでは、インドの伝統的な舞踊であった(写真2)。皆が上手いわけではなく派手さもないが、落ち着いた姿が好ましかった。これまでの多くの学会で見慣れた、各地の民族舞踊、音楽が基本となっていた。

一方DPUは創業一族のパティル博士の名を冠し、医学部を擁する巨大私立大学である。プネ空港にはDPU病院の大きな看板があり、メディカルツーリズムにも熱心なようである。国立大学の施設が古びているのに対して、新しい建物が多く、トイレがきれいなのには驚かされた。授業料は国立大学に比べて高く、富裕層の子供たちが通える大学ともいえる。ここのカルチャープログラムがJNUとは異なり、インド風ではないダンスや歌を演じてくれ、これまでに見たことのないものであった(写真3,4)。

インドの私立大学は総じて大金持ちが多角経営の一つとして設立し、施設も国立大学より立派である。また、授業料も高いせいか、良家の子女が集まっている印象がある。最近、インドで聞いた話では、従来、公立の小中高では体育や音楽の授業が相対的に少なく、学ぶことが中心である。そのため、お金に余裕はあるが、留学までさせることを好まない層は、初めから私学に通わせ、欧米や日本に近い教育を受けさせている。よって、この階層の子供たちは小さい頃から現代ダンスや音楽にも馴染んでいるし、スマホを自由に扱い、SNS好きの日本の若者に近い存在である。彼らはあえて堅苦しい国立大学に行くより、授業料が高くとも有名私立大学に進学するそうだ。カルチャープログラムの差は、この辺にあるのかもしれない。

ある日本企業(生活関連製品の開発・販売)の駐在員の方が話してくれたが、インドのビジネスの難しさは、どこにターゲットを絞っていくかだそうだ。13億以上の国民と言っても、上位1%以内を、或いは10%の中間層(といってもピンキリ)をターゲットするのか、さらに上位20%まで広げるのか?何せ、1%と言っても1,300万人以上である。マーケッターの視点の一つは子供たちだと彼は言う。インドは口コミ社会であり、ネット上の情報も重要とのこと。また、昔に比べて、親たちの世代はわが子に甘いらしく、子供たちの口コミに大いに左右されるそうだ。ねらい目はSNS好きの若年層と彼は言う。インドと付き合うとは、刻々と変わる社会のダイナミズムを理解することだが、見分けるポイントを見つけることが肝要なのだろう。
  • 写真1 JNUの開場にあるネルー像っと私。彼なしにはインドの独立は語れない。
    写真1 JNUの開場にあるネルー像っと私。彼なしにはインドの独立は語れない。
  • 写真2 JNUの学生さんたちの民族舞踏の一コマ。
    写真2 JNUの学生さんたちの民族舞踏の一コマ。
  • 写真3 DPUの学生さんたちの踊り、ヒップホップはお手のもの。
    写真3 DPUの学生さんたちの踊り、ヒップホップはお手のもの。
  • 写真4 彼の歌声に女子学生から拍手喝采の嵐。
    写真4 彼の歌声に女子学生から拍手喝采の嵐。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。
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