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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2025年03月21日

近江谷 克裕
第133 回 Elucをめぐる旅の物語-インド、グルガオンにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
中国には数万社の日本の会社が進出しているが、インドに千数百社にしか過ぎない。L社とS社の30歳代の中堅駐在員は、インド進出について、その活動を熱く語ってくれた。とはいえ、大会社とはいえ、現在は貸しオフィスに日本人駐在員2名、インド人現地社員数名の陣容である(写真1)。L社の彼はインド社会のどの層に、L社の何を売り込むのかが最大の課題と言う。14億人の上位5%でもおよそ7千万人、形成されつつある中間層を10%と見積もっても1.4億人に近い市場なのである。何をどのように売るのか?彼は熱く語ってくれた。

2月下旬、インド政府の誘いで渡印し、時間の空いた金曜日夜に彼らとグルガオンのパブでビールを酌み交わした。グルガオンはニューデリー近郊、且つインディラ・ガンディー空港から近い新興都市である。10数年前はビルも少なく、ごく普通のデリー郊外の街と記憶していたが、今や、最も華やかで活気ある街の一つである。多くのIT企業が進出すると共に、インド最大級のユニクロやココイチがある(写真2,3)。金曜日の夜に、多くの人たちが週末を楽しむ様子は日本以上かもしれない(写真4)。何にしろ、若年層人口が多い国である。

以前は単身赴任の駐在員が多いと聞いていたが、最近は家族と共に赴任する例が多いようである。それだけ、生活面の安全、安心が向上、生活しやすくなったことがあるようだ。但し、家族で住むとなると、家賃相場は月50万円程度が当たり前だと彼らはいう。しかも、マンションの寿命は、建築工法の問題か、メインテナンスの問題か、10年もたてば、劣化するので、次のマンションに移る必要があるとのこと。インドで暮らすことは楽ではなく、本社の理解も足りないとボヤいていた。しかし、これからの市場を考える上で、「今しかない」と、二人が語っていたことが、印象的であった。
これまで、世界を旅して、色々な日本人に会ってきた。概して研究者や留学生が多いせいか、ガツガツしたところがなく、学ぶものを学んだら、帰ってもイイみたいな空気感が多かった。これは、ある程度市場が出来上がった会社の駐在員もそんな匂いがした。政府関係者も似ていて、在留中は無難に仕事をし、且つ、その国を楽しめば良という感じなのだ。但し、スリランカであった、現地採用の大使館員は違っていた。スリランカと日本の関係に最善を尽くそうという意気込みが、今でも印象的だった。一時滞在なのか、長期に滞在したいかで、随分違っているのかしれない。

インドの駐在員を見て、実に羨ましく思った。彼らが日本の将来、自分の将来を見据えて、インドの大地で挑戦し続ける姿が頼もしく感じたのである。そんな姿に接して、私の所属する研究所は如何なものか?若手研究者たちは言われたことをコンプラに引っ掛からない程度に頑張る姿が、少しさびしい気持ちにするのである。ここ最近は留学する研究者も少なく、誠に内向きになりつつある組織なのである。世界に興味がなく、世界の現状を知らない研究者に、ダメ出しを出したいと思うが、上手く伝えないとコンプラ違反と言われかねない。同様に、インドを開拓する野心的な彼らの危惧は、海外勤務の無い本社の人間にインドを理解させる難さらしい。何処も同じか?見たいと思わない人間には何も伝わらないものかもしれない。
  • 写真1 貸しオフィスの共通スペース。この先に個々の会社のスペース(8畳ほど)
    写真1 貸しオフィスの共通スペース。この先に個々の会社のスペース(8畳ほど)
  • 写真2 でんと構えたユニクロショップ。この看板は世界共通だ。
    写真2 でんと構えたユニクロショップ。この看板は世界共通だ。
  • 写真3 カレーの本場の日本のカレー屋ココイチ。インド人のお客さんが多いとのこと。
    写真3 カレーの本場の日本のカレー屋ココイチ。インド人のお客さんが多いとのこと。
  • 写真4 グルガオンの夜は若者で一杯である。
    写真4 グルガオンの夜は若者で一杯である。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員、研究部門長、首席研究員を経て退職、2025年より大阪工業大学、ブカレスト大学客員教授として研究を継続する。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。
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