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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2014年03月20日

近江谷 克裕
第1回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- マンチェスターにて(1) -
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
私は20世紀に始まった生命科学の時代を大航海時代に擬えることがある。DNA-RNA-Proteinのセントラルドグマの発見、免疫システムの発見、最近ではiPS細胞発見など、これらの発見は、まるで大航海時代の新大陸や島々の発見に匹敵するように思えるのである。定めし、個々の研究者は大航海時代の船長、航海士あるいは船員にあたるのであろう。しかしながら、私は、生命科学が今、大航海時代の黎明期なのか、最盛期なのか、或いは終息期であるのか、その答えを持ってはいない。

かつて大航海時代も終わったと思われた1768-79年、クック船長はそれでも新大陸はあると信じて、地球を何周もした。新大陸は無いと多くの船長達が感じても、彼は信念を曲げてはいなかった。結果として、クック船長が発見したのはいくつかの島々であったが、彼が信じた新大陸南極は1816年に発見された。クック船長の読みは正しく、彼は大航海時代の人だったのである。私は生命科学もまた、多くの発見が残されていると信じている。

2014年3月、私はイギリス・マンチェスター大学のMike White先生の研究室にいる。光学顕微鏡やイメージングで世界的に著名なWhite先生との出会いは2年前、多くのスプリットルシフェラーゼアッセイ[*1]系の構築を行った東大理学部小澤岳昌先生の紹介による。White先生と私は、私が研究開発した数々のルシフェラーゼについて議論を重ね、併せて美味しいお酒も共にした。その後、昨年10月に再開した際、今回の訪問を招聘されたのである。

ホタルなどが放つ光、生物発光はルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による。このルシフェラーゼが細胞レベルのイメージングの世界で活用されることは、今から10年前には誰も想像しなかった。これを可能にした一つのブレークスルーが、私が開発に携わったブラジル産ヒカリコメツキムシ由来のルシフェラーゼElucである。Elucに関わって10年。Elucは私と世界中の多くの研究者、企業を結び付けてくれている。その一つがここマンチェスターであり、この物語を掲載させていただくProbeX社でもある。今回の旅はまさにElucをめぐる旅なのである。

生命科学の大航海時代に、私は生物発光の光を探し求め世界をさまよい続けている。また、この光を手に時代を先駆している。Elucの旅の出発地はブラジルサンパウロ、そこから日本を経て、今はイギリスにいる。Elucの魅力、面白さを次回ご紹介する。

[*1] スプリットルシフェラーゼアッセイ系の詳細は、今井一洋、近江谷克裕編:バイオ・ケミルミネスセンスハンドブック233頁(丸善,東京)2006等参照いただきたい。後日紹介予定。
  • Mike White先生と小澤岳昌先生、
マンチェスター大学にて
    Mike White先生と小澤岳昌先生、
    マンチェスター大学にて
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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