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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2014年05月19日

近江谷 克裕
第3回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- マンチェスターからサンパウロへ -
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
マンチェスターでもう一つ感じたことは日本人が大好きな「お・も・て・な・し」である。White先生の「おもてなし」は至れり尽くせりだった。大学内やパブでの尽きない討論、そして1泊2日の小旅行など、あっという間に過ぎた1週間であった。イギリスの食事は美味しくないというのが定番であったが、それも変わりつつあるようで、小旅行で訪れた田舎のレストランホテルの料理は絶品であった。一品ずつ出される料理とそれにあわせたワインは絶妙なコンビネーションであり、アスパラガスのソテーは忘れられない味であった。

こんなことを言うと怒られるが、研究者同士の交流の場では、研究費で「おもてなし」することは多くの国で許されている。今回の「おもてなし」も、おそらく研究費が充当されていただろう。しかしながら、日本では、こんな「おもてなし」はほぼ不可能である。多くの国民は研究費で食事することは許してくれないだろう。多くの国々では、研究者同士の交流(お酒を含めた)は新しい研究の芽を育てるだろうし、研究者は節度ある人々?と考えてくれているようである。事実、お酒を飲みながら、共同研究の話が盛り上がり、次の展開が生まれた。

マンチェスターで生まれた共同研究は細胞の中で分化に関わる2つの遺伝子の発現を解析し相関する2つの遺伝子の動きを時間軸で明らかにするものである。一細胞での分化過程の時間軸解析は多くの生命現象の解明に有益な情報を与えくれるだろう。では、どのように一個の細胞の中で、2つの遺伝子情報の変化を追跡するのであろうか?これを可能にするのが、私たちが開発した異なる発光色を持つルシフェラーゼによるマルチ遺伝子発現解析法である[*1]。

マンチェスターから帰国して4日後、3月19日には再び成田を立ち、ブラジルサンパウロに向かった。この旅は友人のViviani博士が所属するサンカルロス大学で講義し、週末には発光生物を調査するためである。タイトルにあるElucは、ブラジルに生息するヒカリコメツキムシから得られたルシフェラーゼのことである。

週末、我々はサンパウロ州のインターバル国立公園を訪問した。ここでの楽しみは熱帯性雨林の中の数100匹のホタルのイルミネーションである。少し季節はずれのためか、例年よりホタルの数は少なかったが、ホタルの乱舞は見事なものであった。今年はヒカリコメツキムシを発見できなかったが、鉄道虫(写真1)と初めて野外で対面できた。鉄道虫の頭部は赤色、腹側部は黄緑色である。この2つの発光の生物学的な意味は不明な点もあるが、おそらく威嚇、防御といった異なる目的で光っているようである。この1個体内での2つの発光が、マルチ遺伝子発現解析法のアイディアを私に与えてくれたのである。つまり、2色の光で2つのメッセージを送る。マルチ遺伝子発現解析法とは鉄道虫を一個の細胞に置き換えた発想である。

さて、ブラジルの「おもてなし」は可愛い美女たち(写真2)の軽いハグとキッスである。ブラジルに帰ってきたぞという満足感を味わう?ことができる。さてさて、日本人研究者の「おもてなし」は??外国人研究者と割り勘居酒屋酒かな。そこが日本人研究者の限界のようである。

[*1] マルチ遺伝子発現解析法系の詳細は、小島肇夫編:In vitro毒性評価・動態評価の最前線、第4章レポータージーンアッセイを参照。
  • 写真1 : インターバル国立公園で
見つけた鉄道虫
(撮影:産総研 二橋亮)
    写真1 : インターバル国立公園で
    見つけた鉄道虫
    (撮影:産総研 二橋亮)
  • 写真2 : 学生さんたちと訪れた
シュラスコ料理店での一コマ
    写真2 : 学生さんたちと訪れた
    シュラスコ料理店での一コマ
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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