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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2014年08月12日

近江谷 克裕
第6回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- スウェーデンにて①
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
6月のウプサラの雨は寒すぎる。天気予報さえ見ない、情報を仕入れない、でも、旅をする私が悪いのだが、今は夏のはずだ。私はこの6月に、国際生物発光化学発光学会の国際シンポジウムに参加した。忙しい仕事のあと、適当に荷物を詰めて行ったため半袖ばかり。ジャケット一枚ではさすがに心もとない。事前に調べてきたのだろう、何人かの友人たちはコートをしっかり用意している。何となく能天気なグループとそうでないグループは昔から同じようである。

私がこのシンポジウムに始めて参加したのは1994年のイギリス・ケンブリッジで開催された時であるから、かれこれ20年になる。この会は生物発光と化学発光に関わる基礎から応用、そして生物学、物理学、化学に生命工学等と、幅広い分野を包括する。とはいえ、単に光るものが好きな研究者が世界から集まっていると言った方がわかりやすい。私は長期に参加しているお陰か、この学会の幹事や本学会が関わる国際学術雑誌 ”Luminescence” の編集を担当している。会場で話を聞くより、どうしても会場の外での活動が忙しくなる。また初日は、私を含めて其処彼処でハグのオンパレードとなるのも、小さい国際学会ならでは光景である。

今回の学会のトピックスは大きく3つあった。一つ目は、下村脩先生と同時にノーベル化学賞を獲得したChalfie先生の特別講演である(写真1)。先生は線虫C.エレガンスにGFPを発現させたくだりを、当時のポスドク研究者らの実験ノートを交えながら語ってくれた。日本の昨今の実験ノートの問題を考えれば、とても参考になる話しであった。日本人研究者がこの手の話をすると、あざとく感じるが、今回は素直に聞くことができたのは先生の人柄かもしれない。

二つ目の話題はSzalay 先生の講演である。現在、ドイツ、アメリカの大学に籍を置く一方、Genelux社というベンチャー企業でも活躍している。このベンチャー企業は本格的にGFPを医療に使うことを目指しているが、先生は安全なウイルスの中にGFPを挿入、がん治療の効果の検証をGFPで行った事を報告した。臨床研究に膨大な費用が必要だった点は驚きであったが、それ以上に、先生の熱意には感心した。あの研究に対する熱意がなければ、GFPの実用化はまだ先であったろう。私は2010年代にGFPが臨床に活用できることは予想できなかったし、多くの場で無理だろうと語っていた。よって、今は大いに反省している。

スウェーデンといえばノーベル賞であるが、本国際シンポジウムにも大事な賞がある。それはホタル研究の先駆者であるMarlene DeLuca博士を記念した若手研究者に贈られるDeLuca賞である。DeLuca博士とご主人であるMcElroy博士がいなければ、ホタルのルシフェリンやルシフェラーゼの発見は10年遅れていたかもしれない。McElroy博士が一匹1セントでホタルを集めた話は、野外から研究を始めるという生物発光研究の原点でもある。私もそれにこだわり、毎年野外へと飛び出しているのかもしれない。但し、いつも何か忘れて反省する。今回のスウェーデンの旅と同じであるが、いつも新鮮な気持ちでいるには忘れることも重要な気がする。これは言い訳のようである。
  • 写真1: Chalfie先生の特別講演の模様。
実験ノートの一頁一頁が
ノーベル賞につながっている。
    写真1: Chalfie先生の特別講演の模様。
    実験ノートの一頁一頁が
    ノーベル賞につながっている。
  • 写真2: 学術誌「Luminescence」の
編集会議にはワインは欠かせない。
右から3番目がSzalay 先生。
    写真2: 学術誌「Luminescence」の
    編集会議にはワインは欠かせない。
    右から3番目がSzalay 先生。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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