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ルシフェラーゼ連載エッセイ

連載エッセイ ~Elucをめぐる旅の物語~

生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2015年02月12日

近江谷 克裕
第12回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
- 中国雲南にて
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
どんよりした北京から約4時間、昆明空港には一年ぶりに会う友人たちの笑顔が待っていた。2001年から毎年一度は訪れる昆明への旅、一体何回目の訪問であろうか。ホテルに荷物を置いて、そのままレストランに駆けつけると、いつもの仲間たちがいた(写真1)。座った途端に始まる白酒(バイジュー)の乾杯。二次会のカラオケまで、何杯飲んだことか。私は中国語が良くわからないが、中国語しか話せないスタッフさんとも何故か、意志が通じるような気がする。しょせん、酒飲みには言葉はいらないものかもしれない。

中国雲南省ではホタルのルーツを探す研究を進めている。面白いことに西表島に生息するイリオモテボタルの近縁種は、沖縄本島を含めた日本国内にはいないが、雲南にはいる。我々は雲南のイリオモテボタルを見つけ、遺伝子レベルで近い関係であることを明らかにした。海抜数メートルに生息する虫と海抜2,500メートルに生息する虫。何千キロと離れた場所にいるが、近い親戚である。台湾やベトナムにもいるらしいが、二つをつなげる進化の道はまだわからない。

雲南の魅力は三つの大河、金沙江(長江上流部)、瀾滄江(メコン川上流部)、怒江(サルウィン川上流部)に集約される。それぞれが大好きなチベット高原を源にするが、河口は上海、ベトナム、ミャンマーである。この三つの河がもっとも接近する三江(サンジャン)は世界でも有数の生物多様性の場所、世界自然遺産の一つである(写真2)。マレー半島周辺で生まれた生物群は二つの大河をのぼり三江へ、ここで山をこえれば、そこは長江。長江を通じ生物は拡散、日本列島にたどり着いたのかもしれない。陸や海ではなく、大河がアジアと日本列島の生き物をつなげたなのかもしれない。

さて私が主に訪れるのは昆明動物研究所である。ここには私の研究室のポスドクだった李学燕博士がいる。彼女の研究は生物の多様性に関するものであり、ホタルも研究対象の一つである。しかし、彼女をしても、雲南省に何種類のホタルがいるのかはわかっていない。今回、彼女の案内で新キャンパスを訪問した(写真3)。新キャンパス内には雲南農業大学や昆明植物研究所が併設、共同研究が推奨されているとのこと。そこで紹介されたのが、白(ぺー)族出身の魏先生である。李博士もイ族出身であるが、中国は多くの民族によって構成される。特に雲南では多くの民族の方に出会うことができる。

魏先生の部屋では、GFPを遺伝子導入したブタとご対面した(写真4)。鹿児島大学に留学し、遺伝子導入法を学んだ後、中国に帰国しラボを立ち上げたそうである。彼の持つ日本で教わった技術には中国政府から多くの研究資金が提供されている。驚いたことに、品種改良がメインかと思ったが、臓器移植用ブタも大きなテーマとのこと。実際、キャンパス内には数百頭レベルの豚舎も完備されていた。このように生命科学の応用研究には多くの研究資金が投下されている。しかし残念なことに、中国でも基礎研究への研究費は減少気味らしい。

ところで、なぜ毎年、中国に行くのであろうか?大陸に対する憧れかもしれないし、中国に居る方々のやさしさかもしれない。中国は「義の国」、それが心地良いのかもしれない。しかし、そのため、翌日の自分を顧みず飲んだくれてしまう。結局、毎回、同じ失敗を繰り返してしまう。これも酒飲みの常かもしれない。
  • 写真1:中国の仲間たちとの楽しい宴会
    写真1:中国の仲間たちとの楽しい宴会
  • 写真2:怒江の源流の一つ
(2006年夏に撮影)
    写真2:怒江の源流の一つ
    (2006年夏に撮影)
  • 写真3:新しい中国科学院昆明分館
    写真3:新しい中国科学院昆明分館
  • 写真4:GFPを発現するブタ
足の部分が緑色の蛍光を発する
    写真4:GFPを発現するブタ
    足の部分が緑色の蛍光を発する
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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